第255話

「止めたって、以前はしていたってこと?」

「さあな――」


 余計なことまで話してしまったな。

 誰かに話す必要なんてないのにな。


「あっ! 待ってよっ!」


 少し歩みを早くし、通路から出る。

 空から降り注ぐ日差しは、すでに午後4時を過ぎている事もあり弱くはなっていたが、それでも長い暗闇の通路を通ってきた事もあり十分に明るく感じた。


「隠れ里か……」


 通路は盆地の上層に存在しており、300メートル以上下には、20棟近くの家々が並んでいた。


「ここにコトリバコがあるのか?」

「もう、早いっ!」

「お前が遅いだけだ。それより、仕事をしろ。コトリバコはあるのか?」

「待って――」


 アディールが、視線を隠れ里に向ける。


「あの大きな屋敷から強い霊力らしきモノを感じる」

「なるほど……。とりあえず、村に行って確認するか」

「待って! ユート」

「何だ?」

「もう日が暮れる。夕暮れの山は危険。明日の朝まで待つべき」

「夜は魔物が活性化するってことか?」

「そう。村から、強い妖力も感じる。だから、一度、通路で休むべき」

「アディール、時間が無いって事くらいは理解しているよな? 俺達に休む時間は無いんだぞ?」

「ユート。貴方は、強い。だけど、それは神様から与えられた力。ここは専門家の意見を聞くべき。私は、戦闘経験もあるしユートよりも修羅場は経験してる。だから、私の指示に従わないなら、神社庁の命令でもユートに手助けはしない。私にも叶えたいことがあるから死ねないから」

「……つまり、村に何かいるってことか?」

「さっき妖力って説明した。たぶん妖怪がいる。妖怪は夜になると力を増す。だから危険。でも、こっちに気が付いてない。だから通路に戻って朝まで待つ」

「数は?」

「少なくとも100体以上、強さは特A霊能力者と同じくらいの強さ。私でも、纏めて相手をするのは無理。明日、朝になったら少しずつ削っていく」

「仕方ないな」


 同行者の協力を得られないと、これからの調査に関して大きな後れが出るかも知れないからな。

 そうでなくとも、俺は霊とか妖怪の類には、まったくと言っていい程知識がないし。

 

「なら通路に戻る」

「分かった」


 通路に戻り、通路内にテントを張りキャンプの用意をしていく。


「寝る場所……一人分……」

「何を言っている? お前がテントの中で寝るんだよ」


 テントの前で、思いつめた表情で、呟いていたアディールに返事しながら、俺は紅から渡されたリュックの中から携帯食品を取り出すと、火にかけていく。

 肉の焼ける匂いが周囲に漂い始めると、『くーっ』と、空腹を鳴らす音がアディールの方から聞こえてくる。


「――ち、違う! これは!」

「気にするな。生物としては当然の反応だからな」


 俺は、アディールの分の夕食を用意して、彼女の前に置く。

 そして――、俺は電子ジャーを取り出す。


「それって、どこから?」

「さっきペンションに行った時に拝借してきた。米が炊けていたからな」

「……それって窃盗……というかユート」

「何だ?」

「それは無くなった夫妻のモノ。勝手に持ち出すのは死者への冒涜」

「そんなことは知らんな。生物は死ねばタンパク質の塊に過ぎない。食えるモノがあるのなら、食べてやる方が供養だろ?」

「……一瞬、ユートが良い奴に見えたけど、やっぱり最低」

「そいつはどうも――」


 戦場において変な倫理観なんてゴミ同然。

 食べられるモノがあるのなら、敵の食糧だって食うのは常識だ。

 夕食を摂ったあとは、テントはアディールに使わせ、俺は石畳の上で座り、背中を石壁に預けた後、大太刀を抱えたまま目を閉じる。

 もちろん波動結界を展開しながら。


「ユート。夜は冷える」

「問題ない。何時もの事だからな」


 目を閉じたまま、俺はアディールからの問いかけに答えた。




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