第246話

 千葉駅西口に到着したあとは、ロータリーで山崎が手配した人物を待つ事にする。

 

「なあ――」

「何だ? アディール」

「ユートが電話してた人物が寄こす人物は、どんな奴なのだ?」

「さあ? 今回の件には、いい人材だとは言っていたが……」

「ふーん。例の呪物に関して、民間でも調査をしている者が居るとは聞いておったが、まさか、その者か?」

「民間でも?」

「うむ。コトリバコに関しては、民間においても人気のあるホラー的な要素があるからな。――で、それ専用に記事を作るために調べているライターもいるほどだっ」

「なるほどな……」

「お主は、本当に、そう言ったモノには興味はないのだな」

「興味が無いと聞かれると、どうなんだろうな……」

「どういうことだ?」

「――いや。とくに……な……」


 異世界に飛ばされて数十年の間、異世界で暮らしてきて、昔の記憶なんて殆ど残っていない。

 だから、自分がどういうモノに興味があったとか、どういう記憶を持っていたかなんてモノは――、戦闘に関して以外の記憶はほとんど残っていないと言っていい。

 

「変な奴だな」

「そうか?」

「うむ。日本という国は、サブカルチャーというのが進んでいるじゃないか? そんな仲で、お主のような若い人間は、何かと色々な刺激的興味を進んで取り入れていると思っておったからな」

「それは中々な偏見だな」

「事実であろう? この国は平和だ。そして――、それを何も理解してない人間が多い。少なくとも私が、日本に来て暮らして思ったことは、そういうところだ」


 そんなアディールの言葉に、俺は彼女のプロフィールを思い出す。

 彼女――、アディール・エリカ・スフォルツェンドは、北欧から難民として日本に来た人物

 両親を殺されたことで天涯孤独。

 救援活動に自衛隊と共に参加していた神社庁の人間が、その霊力の高さからスカウトして日本に難民として連れてきたのが始まりとされている。

 ことの経緯は、大まかにしか書かれては居ないが、戦場を見てきたという点では、彼女は、この世界においての人間同士の醜い戦いを目の前で見てきた可能性が非常に高い。

 何しろ、両親が殺されたのが9歳の時だからだ。

 まぁ深く追求することはしないが、凄惨な暗い過去を持つ事は想像に難くない。


「まぁ、国によって色々とあるんだろうな」

「うむ。まぁ、日本は良いところだとは思う」

「そっか」

「だから、いまの状況は私としても許せないとは思っている」


 彼女は、腰まで無造作に伸ばしている黄金色の髪を指先で弄りながら、確固たる意志を含んだ声色で――、強い眼で語る。


「のう、ユート」

「何だ?」

「主は、強いとは聞かされているが、それは一人で軍隊を相手に出来るほどなのか?」

「どうだろうな」


 俺は肩を竦める。

 別に、俺は自分が守れるモノが守れるのなら余計な戦闘をするつもりはないし、理由なく力を振るうつもりもない。

 そもそも、誰かの為に手に入れた力でもないからな。


「主は、金さえ積めば仕事を受けると聞いた」

「誰にだ……」


 まったく、俺が金で動くような人間だと思われるのは心外だな。

 まったく心外だ。

 

「東雲からだ」

「そうか。だが、今は借金は完遂しているからな。私利私欲で動くような事はしないぞ?」

「それは残念」


 深々と溜息をつくアディール。

 それは、どう見ても演技とは思えない。

 二人で会話をしていたところで、一台のスポーツカーが目の前に停車すると、運転席側のドアが開くと車の中から一人の女性が出てくるが――。


「お久しぶりね。桂木優斗君」

「……どうして、お前が、此処にいるんだ?」


 車から降りてきたのは紅幸子。

 以前に、神殺しをした時の協力者。

 





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