第240話

――千葉商工会議所が存在する建物からエレベーターで、地下500メートル降りた先に存在する大空洞。

広さは、400メートルトラック10個分ほどあり、高さは200メートルを超えていた。


「まさか千葉駅周辺の地下に、こんな巨大な代物があるとは思っても見なかったな」


 俺は、エレベーターから降りると周囲を見渡し呟くが――、それに対して純也は、静かに俺と東雲の後を付いてくる。


「こちらは、1923年に発見された大空洞になります。関東大震災の時に、偶然に発見された霊的な地下になっており、現在では神社庁が管理しています」

「ほう……」


 住良木から連絡を受けた案内役の東雲が説明してくる。


「いまは、主に霊能者の修練場として利用されています」

「千葉に地下鉄を作らないのは、この場所があるからか?」

「一応、関東一帯の地下にはガス田が分布されているとされていますが、関東周囲には結界が展開されていますので、その結界を破壊しないように地下鉄は極力作らないようにとされています」

「なるほどな……」

「ただ、最近では都内で地下鉄を作るところがあとを経ちませんので龍脈が乱れて、景気が悪くなったりしています」

「景気って龍脈の影響されるものなのか」

「はい。多少は――」


 これから戦う純也との会話は極力避ける方向にし――、東雲と会話をする事にしているが、思ったよりも一般人が知らない情報というのはあるらしい。


「――さて……闘技場のようなモノが見えるが?」


 どこかの天下一武道会のような闘技場が巨大な大空洞の中央に鎮座していた。


「あれは、この地の龍脈と霊的な力場を利用した舞台になります。あの台の上で戦うのでしたら、相当な衝撃を加えないかぎり周囲に被害は及びませんので、ご自由に戦ってください」

「なるほどな……」


 闘技場から30メートルほど離れた場所には、2階建てのコンクリート製の建物が建てられているのを見るが――、


「気になりますか?」

「そうだな。こんな地下の大空洞に、打ちっぱなしと言ってもコンクリート製のシッカリとした建物があるからな」

「そうですか。周囲の建物には、神社庁が管理している呪符や、神降ろしの為の儀式道具、祭祀に使う道具などが保管されています」

「なるほどなー」


 東雲と会話している間に、闘技場の傍まで来たところで、純也が商工会議所に到着した時にロッカールームから担いできたキャリーバックを地面の上に置くと、ファスナーを開き、小太刀や日本刀を取り出している。


「あれも、神社庁で用意したモノなのか?」

「はい。陰陽連の方で、式神の使い方は覚えるという事でしたが霊力の扱いに関しては、神社庁の方が一日の長がありますので」

「ふーん」

「それよりも、桂木様は、何の用意もされなくていいのですか?」

「必要ないな」


 白い上着に袴を身に着けていく純也を横目に、俺は闘技場に上がる。

 その際に、一瞬の抵抗を覚えたが、どうやら何かしらの結界のようなモノが、闘技場を四方から覆っているのが波動結界を通して理解できた。


「多少は、力を振るっても問題ないということか」


 闘技場の中央に立ち、純也の準備が出来るのを待つ。

 しばらくしてから、袖と袴の膨らみを極力押さえたような神主の恰好をした純也が闘技場に上がってくる。

 腰には、日本刀と小太刀を一本ずつ。

 さらに腕には仕込み刀を1本ずつ。

 両手両足には鉄鋼の小手と身に着けていることから、戦闘用の衣装だというのは、一目で理解出来たが――。


「なるほど……」


 俺は、首を一回回してから、純也の方へ体ごと向き合う。


「優斗。俺が、どれだけ強くなったのか見せてやるよ」

「見せてやる……か……」


 



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