第239話

「久しぶりだな。優斗」

「……ああ」


 相槌を打つように頷く俺に対して純也は両手をズボンのポケットに入れたまま、俺の横を通り過ぎて寝ている妹の傍まで近寄り足を止める。


「住良木さん。これって――、明らかに胡桃ちゃんを狙っていますよね? 他の被害者とは呪いの怨恨の濃さが違う」

「そうね。貴方から見ても、そう見えるのね」

「まぁ――。優斗は、何も見えないのか? ……そっか」


 無言で返した俺に対して納得したように頷く純也。

 重苦しい雰囲気になった病室の中で、住良木が『ふと』何かに気が付いたかのような表情をして口を開く。


「そういえば、桂木殿の神域で呪いを相殺する事は出来ないのですか?」

「無理だな」

「そうですか」


 残念そうな顔をする住良木に対して、純也は何も言わない。

 俺が異世界に召喚されてきた経緯を知っている純也からすれば、俺が出来ないと言ったことは、出来ないと理解しているのかも知れないな。


「それよりも、住良木。純也を同行させるとは、どういうことだ?」

「どういう事とは?」

「純也は――」

「優斗、俺の方から頼んだんだ」

「純也、お前には話していない。住良木! 純也は、戦闘面においては素人だ。それに、修行中だろうに! 今回は、複写呪物を警護していた高ランクの霊能力者達が軒並み行方不明になっているんだろ! だったら、そんな危険な場所に行くのは、俺一人だけで十分だ」

「その結果、妹さんを救えなかったら、どうするのですか?」

「――ッ!」

「優斗。胡桃ちゃんを――、困っている人を、俺は助けたい。その為に俺は力を得た訳だし、何より――、俺はお前のことを――」

「純也。お前は、何も分かっていない。連絡が付かないという事は、危険な状態に陥っている可能性が高いということだ。そんな場所に、戦闘未経験者が行けば、足手纏いにしかならない」

「……優斗」

「とにかく、住良木。霊視が出来て戦闘経験がある人間なら誰でもいい」

「優斗!」

「桂木殿……」

「とにかく純也は駄目だ! 危険すぎる!」

「優斗っ!!」


 怒りの形相で、純也が俺のシャツを掴んでくる。


「何で! 俺の話を聞かないんだよ!」

「純也は、戦いというのが、どういうモノなのか理解してない。そんな奴を連れて行くことはできない。お前は、必要があれば女子供を殺すことが出来るのか?」

「……お、お前……」


 俺は、純也の腕を振り払う。


「戦いの場において無用な情けは命取りになる。自分が死ぬ覚悟なんて必要ない。戦場に置いて必要なのは、相手を殺す覚悟だ。女子供老人に関わらず、必要なら殺す。それが、お前に出来るのか?」

「それは……。俺は、そんな事をしなくてもいい道を――」

「論外だな」


 偽善も良い所だ。

 

「何?」

「そんなんじゃ、誰かを守るどころか、自分自身を守ることも出来ない。そんな素人を連れていくほど、俺は馬鹿ではない」

「そうかよ……。――なら! 俺の力を試してみたらどうなんだ!」


 思わず俺は溜息が出る。


「力を試す? 人を殺した事もない人間が何を言っている?」


 ギリッと歯ぎしりする純也を見ながら俺は――、


「多少、力を付けたと思っているみたいだが……。――まぁいいか。純也、お前をどうして連れて行かないのか教えてやるよ」


 純也を危険に晒す訳にはいかない。

 だったら、一度、戦闘で挫折を――、敗北を見せた方がいいだろう。

 


 


 

 

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