第238話

「神社庁が関与する事は、絶対にありえません。それと陰陽庁の方ですが……、それに関しては分からないとしか――。桂木殿は、陰陽庁のTOPを殺していますから、恨む人は恨んでいる可能性があります」

「それは、そうだな……」

「あと日本政府ですが、日本政府が関与する事はありえません。何しろ自国で、正体不明のウイルスが発生した場合の経済的損失は図りしれませんから」

「そう考えると、可能性として考えられるのは、俺に恨みを持つ陰陽庁の元・職員ってくらいか」

「あくまでも可能性としてあり得ると考えればです」

「だよな……」


 思わず溜息が出る。

 これで犯人が割り出せるのなら主犯をぶち殺してすぐに問題は解決するんだが――、そうではないとすると、妹を助ける為には時間的制限が掛けられている状況に陥る。


「桂木殿、まずはコトリバコの調査をされた方がいいと思います。呪いは、それに近いですので」

「それは神社庁が、俺に仕事を振りたいと言っていた奴か」

「はい」

「あまりにもタイミングが良すぎる気がするが、そうするしか方法は無さそうだな」

「それでは、後程、自宅へ資料を持参致します」

「ここへ持ってきてくれ」

「それでは、休まらないのでは? ずっと県警に詰めていたと聞いていますが?」

「ここでいい」


 俺は妹の頭を撫でながら答える。

 

「分かりました」


 住良木は、すぐに電話をする。

 内容は、コトリバコに関する資料について。

 電話が終わり――、


「それでは桂木殿。私は、結界を張ってきます」

「ああ。何か、少しでもおかしなことがあったら知らせてくれ」


 俺の問いかけに首肯した住良木と医師たちは部屋から出ていく。

 その後ろ姿を見送ったあと――、


「胡桃。どんな手を使ってでも、お前を絶対に助けてやるからな。もし――、お前に呪いを掛けた奴がいたら、この世の地獄を見せてやる……」


 壊死し――、石と化した妹の手足の指先へ視線を向けながら、俺は瞼を閉じた。

 しばらくしてから、俺は音がした事で目を覚ます。

何度か、廊下へと続くドアがノックされている。


「住良木か?」

「失礼します。約束していた資料を御持ちしました」

「ああ。すまないな」


 椅子から立ち上がり、住良木が差し出してきた資料へと目を通していく。

 

「コトリバコの数は、全部で9個か?」

「はい。複写呪物と呼ばれるコトリバコは全部で9個存在しています。細かいのを含めると数百を超えていますが、複写呪物の9個以外は、神社庁と陰陽庁で処理できます。ただ――」

「複写呪物に関しては、神社庁と陰陽庁でも対応は難しいという事か?」

「はい。原初である福音の箱を模して造られたコトリバコは全部で9個。そのどれもが強力な悪霊や怨霊が守護しています。下手をすれば神にすら届きうる力を持つ神ですら――」

「複写呪物なんて誰が作ったんだ……。大体――」


 俺は資料を見ていく。

 その中にはコトリバコの作り方が書かれているが――、


「胸糞悪い内容だな」

「はい。ですが、その為に、その効果は絶大です。一般人でも知っているほどに……。そのため、神社庁と陰陽庁は封印し見守る形をとっていました。ただ、今回――、原型でもある福音の箱の力が解放されてしまったために、解放された力の余波を受けたことで活性化したことで日本全国で呪物による被害が続出している状況です」

「福音の箱は壊さなくていいのか?」

「伊邪那美様が見ておられるのでしたら問題ないと思います。それに、すでに共鳴しているのは、複写呪物だけですので」

「そうか……」


 資料を確認終えたあと、俺は立ち上がる。


「桂木殿。今回、日本全国を回る必要が出てきます。そして――、どのコトリバコが原因を発生させているのか分かりません」

「――なら、片っ端から破壊していけばいいだろ?」

「その結果、呪いが悪化する事も考えられます」

「……なら、どうしろと?」

「私は、病棟の結界維持で動くことはできません。それに、他の神薙も出払っている為、協力できるのは、私が知る限り一人しか――」

「誰でもいい。早く呼んでくれ」

「入ってください」

「既に呼んであったの……か……? ――ど、どうして……、純也が?」


 病室に入ってきたのは、ジーンズにワイシャツ姿のラフな格好の純也。




 


 

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