第241話

「なんだよ?」

「――いや」


 俺は肩を竦めて答える。

 戦闘において、どれだけ強いのなんて実際は、自分の口で語るモノではないからだ。


「それよりも、きちんと扱えるのか?」


 俺は、純也が腰に差している日本刀と小太刀を見ながら語り掛ける。

 何故なら、一週間前までは純也は、部活動でサッカーはしていたが、武術とは無縁だったからだ。

 真剣を扱う以上、取り扱いを間違えれば自身も傷つくことになるのは周知の事実。

 

「刃引きはしてある」

「なるほどな」


 思わず溜息が出る。

 つまり、相手を斬り殺す覚悟は無いということかと。


「言っておくが、当たり処が悪ければ死ぬからな!」

「問題ない」


 返答しながら視線を東雲に向ける。


「分かりました。それでは、決闘を開始してくださいっ!」


 東雲が頭上に上げていた腕を振り下ろすと同時に、純也が走ってくる。

 純也は、俺と間合いを詰めると顔面に殴りかかってくるが、俺は一歩も動かずに――、肉体も強化せずに純也の腕を掴むと、重心を崩し純也の体を空中に放り投げる。


「なっ! うわっ!?」


 驚いたような声を上げながら背中から石畳の上に叩きつけられる純也。

 そして、俺は純也の腰から抜き取っていた鞘に入ったままの小太刀と日本刀を闘技場の上――、純也に向かって放り投げる。

 俺が放り投げた二本の刀は、軽い音を立てて純也の近くへと落ちる。


「――で? その腰に差していた得物は飾りか? もし、今の攻防で、お前の腰に差してあった刀が真剣だったら、どうなるのか想像はつくだろう?」

「――くうっ……。あの一瞬で――、どうやって……」


 背中から落ちたからなのか、痛みから呼吸もままならないようで、痛みに顔をしかめながら、俺を睨みつけてくる純也はうめき声を上げている。


「今ので、お前は、一回死んだことになるが――、それでも強くなったと言えるのか?」


 ふらつき立ち上がる純也は、石畳の上に転がっている小太刀を手にすると鞘から抜くと構え――、突っ込んでくるが――。


「お前、ふざけているのか?」


 横から振るわれた小太刀を、俺は指先で受け止める。

 もちろん身体強化なんて必要ない。

 そのまま、流れるように小太刀を指先だけで掴み引っ張り相手の重心を崩すと同時に、右回し蹴りを側頭部へと入れる。

 純也の体は、闘技場の石畳の上を十メートルほど転がり止まった。


「はぁー。予想以上の酷さだな」


 思わず溜息が出る。


「何を……したんだ……」

「何もしてない。純也、お前は相手を傷つける覚悟がない。だから、お前の攻撃は直線的で読まれやすい。正直、ここまで酷いとは思わなかった。お前は、戦場に出る心構えが出来ていない」


 たった一発、蹴りを入れただけで身動きが取れない純也に近づく。

 純也が必死に体を動かそうとしているが、脳を揺らしたから、しばらくは動くことはできない。


「お前は、大人しく俺に守られていればいい」

「――ッ!」


 俺の言葉に純也が眼を大きく見開くと――、


「前鬼! 後鬼!」


 ――大声で純也が式神の名を呼ぶ。

 すると巨大な咆哮と共に――、純也の周囲の大気が震え――、体高3メートルを超える鬼が2匹、俺と純也の間に姿を見せた。


「我が主の名にて、ここに推参せん」


 赤く燃え上がる灼熱の巨大な日本刀を持つ鬼。


「我が主の名において、ここに顕現せん」


 氷で作られた弓を手にする鬼。

 それぞれが、俺へと殺意の篭った眼差しを向けてきた。




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