第236話

「あの、どうして住良木先生が?」

「あー」


 そういえば、住良木は保険医ってことで学校に来たんだよな。


「保険医だからです」


 ざっくりと説明する住良木に――、


「え? あ、はい……。私も医師免許を持っていますので、私が勤務する学校の生徒が、倒れたと聞けば、駆け付けるのは当然です」

「それは……え?」

「とりあえずだ」


 俺は、都の腕を掴むと病室から出る。

 後ろからは医師たちが付いてくるが、俺は無視して、そのまま病棟入口に到着する。


「君! 未知のウイルスがあるかも知れないと言っただろう!」


 追って来た日下部が、怒った様子で話しかけてくる。


「責任は、全て俺が取る。それと都には感染はしてないみたいだから心配しなくていい」


 都の遺伝子を確認したが、一般的な人間の正常値で推移している事から問題は見つけられない。


「責任を取るって……。これは? って――!? 警察手帳? 君みたいな若い方が?」

「これで俺の身分は理解してもらったと思う」

「――だ、だが……、院長には――」


 俺は携帯を取り出し神谷へと電話する。


「神谷か?」

「はい。どうかなさいましたか?」

「すぐに妹が入院している病棟を買い取れ。値段は、相手の言い値でいい」

「分かりました。また、何かをするのですね」

「俺が問題行動ばかりしているような口ぶりは止せ。とにかく大至急だ」

「分かりました」


 電話は切れる。

 俺と神谷との電話が終わるのを待っていたかのように――、


「ねえ! 優斗! どういうことなの!? 病院を買い取るとか! 意味が分からないんだけど!」


 そう、俺に矢継ぎ早に話しかけてくる。


「どういうことだと言われてもな……。まずは、妹の容態の把握と対策を練る事が重要だ。都は、身体に影響がないのだから、一度、実家に戻った方がいいと思う」

「優斗! きちんと説明して!」

「だから、ここに都が居ても意味はない。何かあったら俺が困る。だから――」

「そう言う事じゃないの!」

「どうして、私の話を聞いてくれないの?」

「話なら聞いている」

「だったら! 何で何の説明もしてくれないの? どうして、何も教えてくれないの? 優斗の力の事とか、純也のこととか意味が分かんないよっ!」


 都が涙目で、声を荒げ言葉を紡ぎ終えたところで、携帯電話が鳴る。


「桂木警視監。病棟の買収よりも借り入れと言う事で話が纏まりました。200億円ほど積みましたが……」

「そうか」


 俺が電話を受けているのと同時に、日下部にも電話が掛ってきていた。


「本当ですか? 立花院長! 彼に、全面的に協力しろと!?」


 日下部が掛かってきた電話に対して対応を終えたあと、肩を落とし――、


「桂木警視監。貴方の指示に全面的に協力し応じるようにと院長からの命令が出ました」

「分かった」


 さすが神谷、交渉力は高いな。

 まぁ200億円も積めば相手も折れるというものか。


「とりあえず、都はタクシーを捕まえて実家に戻った方がいい」


 俺が、そう都に伝えたところで、頬を殴られる。

 不意打ちと言う事もあり、数歩、後ろへと下がるが――、


「優斗のバカッ!」


 捨て台詞を吐くと、都が病棟から出ていく。


「大丈夫ですか?」


 先ほどまでは打って変わって、客として対応してくる日下部に対して俺は何の問題もないと答えた。



 

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