第235話
「それで、俺のところに緊急な連絡がきたということか」
俺は、妹の額に手を触れながら、遺伝子情報を確認する。
「――き、君! 一体、何を!」
防護服を着た男が慌てた様子で病室に入ってくる。
声からして、病棟まで俺を連れてきた医師だろう。
部屋に入ってくると、俺の傍まで近寄ってくると肩を掴んでくる。
「少し黙っていてくれ」
「優斗、どうなの?」
「遺伝子情報が書き換えられているな」
「それって……」
「遺伝子の細胞分裂を決定する情報に何かが介入した跡がある」
妹の額に手を触れながら、妹の体を構成している塩基配列から全ての情報を読み取っていく。
「何とかなるの?」
「特に問題はない」
自身の体内で増幅した生体電流を介して、以前に妹の体を修復した際に得ていた情報へと生物を構成する図面にアクセスし修復すると同時に、肉体の再生を行う。
「――ッ!」
神経が繋がることで、痛みを感じたのか妹が苦悶の表情を浮かべる。
すぐに痛覚遮断を行い――、
「とりあえず、これで問題はないだろう」
俺は溜息をつく。
とりあえず大事にならずに良かった。
「ゆ、優斗っ!?」
「どうし……」
再生を終えたばかりの妹の手足の指が一瞬で朽ちて砕け散る。
「――なっ!」
再生は完璧だったはずだ!
すぐに妹の遺伝子情報を確認する。
「馬鹿な……」
「どうしたの? 優斗」
「遺伝子情報が書き換えられている。しかも、俺に気づかれないままに……」
「え? それじゃ……」
「……」
どういうことだ? 俺の感知能力を持ってしても把握できないなんて……。
「ねえ! 優斗! 胡桃ちゃんは助かるんだよね?」
「大丈夫だ」
「本当に?」
「ああ。それよりも――、都は何ともないのか? 全員が、防護服を着ている中で、普段着と代わりないみたいだが」
「うん。私は、何ともないよ」
「それならいいが……」
「優斗は大丈夫なの?」
「俺は――」
途中まで言いかけたところで、口を閉じる。
「ううん。何でもないの。それよりも胡桃ちゃんは――」
「少しいいですか?」
俺と都の会話に割って入ってくる医師の一人。
たしか日下部と言ったか?
「何か?」
「先ほど、指先を再生させたように見えたのですが……」
「気のせいだ」
今は相手にしている時間が勿体ない。
それよりも問題は、一時的に妹の肉体を修復することは出来たとしても、すぐに腐り落ちるという点。
再生させ続けることは問題ないが、俺とは違い妹は一般人。
肉体再生には莫大なエネルギーが必要になることから、何度も使えるモノではない。
そして――、妹の肉体の腐り落ちるという原因から考えると、もって5日と言ったところだろう。
つまり時間がない。
何とかすると公言したは良いが……。
「桂木殿」
ようやくというか、住良木が病室へと到着したようだ。
「住良木か」
「はい。遅くなりました。それよりも、これは……」
顔色を青くする住良木に――、
「何か見えるのか?」
「はい。それよりも、他の方は外に出した方がいいと思います。何より、そちらの女性は病棟から出した方がいいかと」
住良木は、都の方を見て、そう口にする。
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