第228話

 神谷が部屋から出て行ったあとは、椅子に座りながら背もたれを下げる。

 彼女が言ったことは核心をついているだけあって、何の反論もできないどころか言い訳もできない。

 ――そもそも、俺には、そんな資格すらないが――。


「ダサいな……」


 自嘲気味に笑みを浮かべてしまう。

 

 ――トウゥルル。


「――ん? 転送か?」


 受話器を取る。


「桂木だ」

「住良木さんという方から電話を取り次いで欲しいとのことです」


 受付の女性からの電話。

神谷を通さずに電話をしてくるということは……。


「分かった。取り次いでくれ」

「分かりました」

「住良木です」

「どうかしたのか?」

「どうかしたではありません。こちらに一切の連絡を寄こさずに、陰陽連を買い取るなんて、どういうことですか?」

「一々、報告する義務はないと思うが? それよりも借金に関しては神谷から――」

「はい。桂木さんの借金は全部、返済されました。――ですが!」

「病院の件か?」

「はい。どうなされるおつもりなのですか?」

「それに関しては、実行をする予定だから進めておいてくれ」

「――そ、そうですか……。それは、よかったです。さすがに、今更、取りやめという形にしますと――」

「権力者から文句を言われるということか?」

「はい」

「まぁ――」


 もし、権力者が俺に害を及ぼす『敵』となるのなら、皆殺しにすればいいだけの話だが――、それを口にする必要はないな。


「何かあったら連絡をくれ」

「――それで拷問をするという事ですか? 時貞官房長官に行った拷問すら軽く見える対応は、日本の閣僚だけでなく、話を聞いた上級国民は全員が震えあがっています。苦情は来ると思いますが、実力行使で来る人間は来ないと思いますよ」

「そうか。それは、残念だ」

「本当に残念そうに呟いているように聞こえるのが怖いですね」

「本当のことだからな。それよりも、俺に電話をしてきたのは、陰陽連と病院に関してだけか?」

「――いえ。じつは、福音の箱についてです」

「ほう……」


 そういえば、福音の箱は山崎が今、所持しているんだったな。


「実は、日本各地に封印されていた特定の呪物が、福音の箱の暴走と合わせて、活性化していた事が、ここ数日、守護家系から連絡があり判明したのですが……」

「福音の箱か……。それが原因なのか?」

「はい。間違いないかと――。ただ、神社庁の霊能力者達が調べた限りでは、呪物同士が共鳴し合っている所までは確認できたそうです」

「なるほど……」


 エルピスの箱庭の影響が、別のところまで及んでいるとすると、それは問題があるな。

 


 


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