第四章 幕間
第217話 峯山純也(1)第三者side
「やっちまった……」
優斗が部屋から出て行って数時間が経過し――、峯山純也は、一人、部屋のソファーに座りながら溜息をついていた。
異世界で、優斗が、どういう生活を――、戦いをしてきたのか峯山純也は知らない。
それでも、彼は、自身が知っている優斗が、人をモノのように扱う行為や考えを持っていることに耐えられなかったのであった。
まるで別人のようで――。
だからこそ、友人として手が出てしまっていた。
『主よ』
迷い俯き落ち込んでいた峯山純也の側に赤い模様の入った真っ白なチワワが姿を見せる。
「前鬼か。消滅したと思った……」
『我は霊体であるから、物質化した部分が消し飛んだだけで本体は無事である。それよりも、主は、落ち込んでいるようであるな』
「そう見えるか?」
『うむ』
「なあ。前鬼――」
『なんだ?』
「優斗の力は、一体何なんだ? あれは異世界に召喚された時に付与されたって聞いたけど……」
『あれは何かに力を与えられたモノではないな。たとえば地獄で力を得たとしても、その力を現世には持ってこれないように――』
「でも、前鬼と後鬼は、力を振るえているよな?」
『それは存在が主たち彼岸の者達とは異なるからだ。だが、我々が力を振るう為には、現世に住む人間と契約し霊力という原動力を持たねば、力を振るうことはできない』
「つまり、あれは神に与えられた力ではないと言う事か?」
『おそらく、異世界に召喚された時に、その世界の神に力を与えられたのなら、こちらの世界に戻ってきた時に、力を消失している可能性は高い』
「つまり、あれは優斗の力ってことか?」
『おそらくな。だからこそ、奴は理解できない存在だと言ってよい。あれは――、あれだけの力を内包していると言うのに人の体と人の精神を維持していること自体が驚嘆に値する』
「なんだよ、それ――。まるで優斗が……」
『ハッキリ言おう。主よ。あれは化け物だ。人という枠組みの中には存在しない正真正銘の化物と言ってよい』
「……化け物って……」
『あれは世界の理に干渉する力を有しておる。強い力を有する者は、それだけで周りに災厄を撒き散らす。だから、あの者とは近づくのは推奨しない』
「俺が、その言葉通りするとでも?」
『思わない。一応、忠告をしておいただけだ』
「そっか……。――なあ、俺が優斗に勝てると思うか?」
『今の力では、桂木優斗には勝つことはできない。何しろ、奴は化け物だからな』
「俺の友人を化け物扱いするのは止めてくれ」
『主よ、了解した』
「――なあ、俺は優斗を止めたいと思っている。優斗は、力が全てだと考えていると思う。それに優斗は、俺達を守る対象だと思っていた。だから、たぶん俺の声は届かない」
『言葉だけでは届かない思いもあるからな』
「だから力が欲しい。優斗が、俺の言葉に耳を傾けるだけの力が――」
『うむ……、だが、安倍珠江が死んだ以上、式神をどう使うかを知っている人間は、本家の安倍家でもいないはずだ』
「そうか……」
『だが、生き字引ならいる』
「生き字引?」
『うむ。我々を主と引き合わせた福音の箱の管理者だ。あの者なら1200年以上、陰陽を見てきた。式神の使い方についても博識であろう』
「それって……、パンドーラって奴のことか?」
『そうなる』
「冗談じゃない! 誰かを破滅させるような行動を取るような奴を師事するなんて! 前鬼と後鬼から直接聞く訳にはいかないのか?」
『霊力をどう鍛えるかは知らん。だが友人を助けたいのだろう?』
「…………」
前鬼の言葉に、無言になり俯く峯山純也は、唇を噛みしめる。
「分かった。そのパンドーラって奴のことを――、どこにいるのかを教えてくれ」
「福音の場所なら、私が教えてあげるわよ?」
「――だ、誰だ!?」
ソファーから立ち上がり純也は通路へと繋がるドアへと視線を向ける。
するとドアが開き白衣姿の女性が入ってくる。
「たしか住良木先生?」
「こんにちは。違うわね、こんばんは。峯山純也君」
「どうして先生が、こんなところに?」
「それよりも、貴方は力が欲しいのよね? 良ければ神社庁に就職しない?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます