第218話 峯山純也(2)第三者side

「――ちょ、ちょっと待ってくれ」


 住良木からの性急な提案に、頭の中が混乱する純也は少し思考したところで口を開く。


「あんた……一体何者なんだ?」

「随分と冷静ね。16歳とは、思えないわね」


 そう語る住良木は、峯山純也からの許可を得る事もせずに部屋へと上がり込むと、テーブルを挟んだ向かい側のソファーへと腰を下ろす。


「冷静じゃない。あまりのことに驚いて何も言えないだけだ。今日、一日で色々なことがありすぎて、どこから手をつけていいのか分からないくらいだ」

「そう。それは良かったわ」

「何が良かったんだ……。それより、あんたは――」

「私は、神社庁に勤めている住良木鏡花。強い霊力を持つ人間を勧誘しているの。丁度、貴方から強い力を感じたから、勧誘をしてみたの」

「何か物のついでみたいな言い方だな?」

「まぁ、そうなのだけど……。本来は、別の用事で此方に伺ったのだけど、既に立ち去った後だったから」

「それって警察関係者のことか?」

「違うわね。うちと警察は縄張りがあるから、決して関係は良好とは言えないもの」

「そうなのか……。――で、神社庁って言っていたけど、それって神社を統括する組織なのか? 名前的に――」

「名前ではなく名称ね。そうね、概ね間違ってはいないわ」

「さっき霊力の強い人間を勧誘しているって聞いたけど、もしかして妖怪みたいなのを退治していたりするのか?」

「そうね。あとは年始年末の人手が足りない神社のお手伝いとか、本当のお祓いとか、仕事の内容は多岐に渡るわ」

「……なあ、さっき俺に言ったよな? 力が欲しいなら神社庁に就職しないか? って――」

「ええ。少なくとも霊力の扱いを含めた戦闘技能を身に付けたいのなら、神社庁は、それなりのカリキュラムを組んでいるから、強くはなれるわ」

「そうか。――で、聞きたいけどさ」

「何かしら?」

「どうして学校で保険医のアンタが、ここにいるんだ?」

「……」

「それに、用事があって、ここに来たって言っていたよな?」


 純也は、言葉を発しながらも一人の人物が頭の中に浮かんでいた。

 警察がホテル内を常に警備しているのに、目の前の人物は何事もなく部屋に辿り着いたことに。

 それは警察関係者ではないと難しいというのは、少し考えれば分かるモノであった。

 そして――、目の前の女性が語った警察関係者には用事が無いという言葉。

 それらが差し示す答えは――。


「それって、俺の友人の桂木優斗のことか? 優斗に会いに来たってことか?」

「正解」

「やっぱりか……」

「私のことは、桂木君から聞いてはいなかったのね」

「――ちっ」


 思わず舌打ちする純也。

 優斗が、全てを話していなかった事に気がついた純也は、ショックを受けつつも視線だけは、住良木に向ける。


「――なあ、一体、どうなっているんだ? 安倍先生と言い、アンタといい、変なことが起きすぎているだろ……。それに――」


 純也は、彼から少し離れた場所に具現化している仔犬を一目見る。


「あんたは優斗に関して、どれだけのことを知っているんだ?」


 

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