第211話

 JR盛岡駅前から徒歩数分の、駅と直通の10階建てのホテルに到着したあと、神谷の案内で建物内をエレベーターで上がっていく。


「神谷」

「はい。どうかしましたか?」

「たしか、男性と女性は部屋を別々にしてあるんだよな?」

「はい。万が一という可能性を考えまして、そのようにしてあります」

「そうか」

「それが何か?」

「――いや、何でもない」


 正直、都と顔を合わせ難い。

 何しろ、俺の力を都が見た以上、何かしらの説明が必要になる。

 神の力と言う事にすれば、話は簡単だが嘘をつく行為は、正直言うと気が咎める。

 だが、本当のことを言う事は絶対にできない。

 だからこそ、純也と都たちが別室だったというのは本当に助かった。


「現在、8階フロアは、ご友人の身の安全の確保という意味合いもあり、時貞官房長官の命令により日本政府が全て借り切っています」

「そうなのか?」

「はい」


 頷く神谷を見て、点数稼ぎだとは思うが、その点は時貞に感謝をしても良いと見直す。


「それじゃ、あとで礼をしないとな」

「桂木警視監が顔を出さない事が一番の礼だと思います」

「それを言われると困る。まぁ、反省はしてないが――」


 8階フロアに到着し、拳銃を携帯している警察官と何度も擦れ違う。

 しかも警察官だけでなく刑事まで――。


「かなり厳重だな」

「時貞官房長官の命令ですから」


 話していると812号室と書かれている扉の前で神谷は立ち止まる。

 

「こちらのお部屋が、峯山純也様を軟禁ではなく泊まって頂いている部屋になります」


 今、一瞬――、軟禁って言ってたよな。

 まぁ保護と言っても身の安全の確保のためだから、軟禁でも仕方ないかも知れないが。

 



 ――コンコン。


「誰ですか?」

「岩手県警の神谷です。ご友人の桂木優斗さんをお連れしました」

「(おい……)」

「(本当の役職を言えません。それに、内閣府が関わっているなんて一般人が知ったら警戒されますから)」


 俺としては、純也にキチンと話を通すつもりだったから、最初からオープンに行こうと思っていたが、神谷としては体裁を重んじたいらしい。


「待ってくれ」


 ガチャリと、音が室内から鳴ってくると共に扉が開く。

 扉の隙間からは、疑ったような表情で此方を見てくる友人の純也の姿が見えた。


「優斗か?」

「純也、無事か?」

「…………」


 俺の問いかけに無言で扉を開けて部屋に入るように催促してくる純也に、俺は困惑しながらも神谷と一緒に部屋の中へと入る。

 部屋の中はベッドが二つ置かれており、高級そうなソファーや椅子などが置かれているリビングスペースもあり、かなり高級な部屋だというのが一目で分かった。


「はぁー」


 溜息交じりに、高そうなソファーに座る純也。


「さっさと座ったらどうだ? 優斗」

「そうだな。神谷も」

「失礼します」


 3人ともソファーに座ったところで、無言が続く。

 純也の様子から、聞きたいことがあるというのは分かるが、何て話を切り出していいのか分からないのだろう。


「峯山さん。体の具合とかは大丈夫ですか?」

「まぁ、何ともない。優斗が治してくれたんだろ?」


 話の取っ掛かりを神谷が作ってくれ――、話題を俺に降ってくる純也。


「まぁな……」

「……なぁ、一体全体、どうなっているのか、説明してくれるんだよな?」


 そう純也は、話を切り出してきた。



  

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