第210話
「ソレなら良いが、もし反故なんてことにしたら――、地獄めぐりツアーだからな? どこまで逃げても逃がさんから、そこは分かっているよな?」
「――あ、ああ……あわわわわわ……」
ガタガタと体を震わせて奇声を上げて対策室から出ていく官房長官。
どうやら、以前にお話しした内容がフラッシュバックしたのかも知れないな。
「桂木警視監。あまり時貞官房長官を虐めるのは――」
「戻ってきたのか」
「はい。それよりも、何の話をしていたのですか?」
「報酬の話だな」
「そういえば、報酬に関して私が交渉するように承っていましたが、桂木警視監が時貞官房長官と依頼成功報酬額を交渉したと聞きましたが、100億円ほどで手を打ったのですか?」
「――いや、2兆5000億円で手を打った」
「に――、2兆!? ですか?」
「ああ。神谷にも、きちんと報酬額を分配するから期待してくれ。成功報酬から割合で報酬を支給すると以前に約束したからな」
「……2兆円の1%でも200億円……。税金を抜いても……」
ゴクリと唾を呑み込み計算に耽る神谷は、ハッ! とした表情をすると、透明なビニールのカバンを差し出してくる。
「こちらに新しい衛星携帯機能がついた端末を用意致しました。私の連絡番号を登録しておきましたのでご利用ください」
「すまないな」
「あと、こちらが警察手帳になります」
「すぐに警察手帳が用意できるとは、用意がいいな」
「一応、桂木警視監は、色々な組織に目をつけられていますので、紛失する恐れも考え予備も用意しておきました。念の為に予備を持参しておきましたが、役に立ってなによりです。あと、財布ですが、近くのコンビニで財布を用立ててきました」
受け取った財布の中には、1万円札が10枚ほど入っている。
とりあえず、一時金としては問題ない額だろう。
それにしても宮原警視監が秘書として付けてくれた神谷は、そうとう優秀な人間だな。
「あとは、友人と会いたいんだが――」
「分かりました。すぐに車を回します。建物から出て正面入り口で待っていてください」
「分かった」
神谷が小走りで対策室から出ていったあと、対策室内は微妙な空気が漂う。
対策室の捜査員全員が固まったように動かず、俺の方へと注視してきており、重苦しい雰囲気だ。
まるで、冒険者の時代に護衛任務を受けた際、他の冒険者パーティのメンバーが全滅したが、俺のパーティメンバーだけが生き残り成功報酬を受け取っていた時の空気に近いと言えばいいのか。
俺は、そんな空気の中、対策室から出て建物の入り口から出る。
数分すると黒塗りのセダンが目の前に停車する。
車に乗り込んだあとは、盛岡駅近くのホテルへと向かうが――。
「神谷」
「どうかしましたか?」
「あそこのホテル、火災か何かあったのか?」
「あのホテルに、桂木警視監の御友人が泊まられていたのです。その際に、妖怪から襲撃を受けて、御友人とホテルに宿泊中の一般人の方が逃げるだけの時間を稼ぐために15人の捜査員が殉職しました」
「そうか……。神谷」
「何でしょうか?」
「殉職した人間の肉体で残っている部分とかはあるのか?」
「ありますが……」
「そうか。それと、死亡した捜査員の氏名などは公表したのか?」
「――いえ。まだですが……その点に関しては、現在、国と警察の間で調整中です」
「なるほど……」
「どうかしましたか?」
「死亡した捜査員の発表については、今日一日、待っていてくれるように伝えてくれるか?」
「それは――、かなり難しいかと……」
「ある程度の金は掛かってもいい。時間を作ってくれ」
「それは、マスコミに圧力をかけると言う事ですか?」
「そうなるな」
「それなりにお金が掛かると思いますが……」
「必要経費だ」
「分かりました」
俺の友人を助けるために殉職したのなら、それは俺の失態だ。
ならば、責任を取るのが務めだろう。
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