第201話

 斬り落とした腕は、海の中へと落ちて消えていく。

 どうやら、海の上で立っていられるのは、本体の体だけのようだな。


「おのれ――」


 安倍珠江は、背中から漆黒の翼を生やすと羽ばたき、俺から距離を取る。


「何故だ? 何故……? 貴様っ! 何故に、それだけの力を――、神から、それだけの力を得ている!」


 言葉遣いが完全に破綻し、俺への憎しみと怒りに駆られているのか。

 対して――、俺の答えは決まっている。

殆ど焼け爛れた軍用ベストから、コインを3枚取り出し空中へ投げると同時に電磁加速させ射出。

 安倍珠江の翼を2枚ともレールガンが貫き――、最後の一枚が、脳天を粉砕する。


「答える訳がないだろうが。戦闘の素人がっ!」


 空中から落ちてくる安倍珠江を中心にして黒い魔法陣が、唐突に形成されると共に白へと反転し――、魔法陣を通り抜けたあと、安倍珠江の体が再生していく。


「何だ?」

「フフッ、そうね――。そうよね……。あれが――、あれは神の力なんかじゃないわ」


 背中から純白の4枚の翼を生やし、空中で停止し浮遊する珠江は、赤い瞳で俺を睨みつけてくる。


「貴方の力、ようやく理解したわ」

「……」

「負の力――、汚れで、貴方の神の力を穢す事が出来ない理由――、それは悪魔と貴方は契約しているという事!」


 俺は、思わず首を傾げる。

 地獄の大公どもなら、異世界に居た時に戦ったことがあるが、契約なんて結んだ覚えはない。


「答えるつもりは無くてもいいのよ。もう、分かったから――、理解したから――。本当は、この力を使うつもりはなかったけど……。陰陽五行の術で反転した、この力なら! お前を葬りさることが出来るから!」

「俺を試すと聞いていたが、どうやら俺を殺す方向に完全にシフトしたようだな。まぁ、今更、どんな理由があろうと、貴様を殺すことには代わりはないが……」

「煩いっ! お前は、何も分かっていない!」

「やれやれ――、俺は敵の話など聞く必要もないし、話し合うつもりもない。文句があるのなら!」


 水を足場にして上空へと跳躍し――、女の頭を手刀で刈り取る。


「――え?」

「だから言ったろう? 戦闘中にしゃべるなと。このピーキーが! 雷光――」


 左手のひらに体内で増幅した生体電流を収束させていく。


「――爆砕弾!」


 そして――、指向性の存在するプラズマの塊を作り出すと共に、女の体を左手で貫くと共に胎内へと埋め込み、手を抜き離れる。


「貴様、何を――!?」


そんな言葉に、俺が答えるはずもなく――、女の体は、時間差を置いて粉々に爆砕した。

 周辺に散らばる数千度の温度に焼かれ炭とかした女の肉体。

 それを見ている俺と、頭だけになり呆然と自分の肉体が吹き飛んだ様を見ている安倍珠江。


「――あ、あああ……。き、きさま……」


俺は、安倍珠江の白く変色した髪を掴んだまま、腕を持ち上げ女の顔を真正面から見る。


「さあ、次は何をしてくれるんだ?」


 さあ、もっと見せてみろ。福音の箱の力を――、陰陽なんとかって力を――。

 俺は笑みを浮かべる。

 獰猛なまでに――、もっとだ! もっと! 絶望に歪み――、恐怖に慄く姿を見せて見ろ!


「――ヒッ! この化け物ガッ!」


 突然、安倍珠江の頭を掴んでいた右腕が切断される。

 

「何だ?」


 俺は腕の再生を行ったあと、海の中へと落ちていく安倍珠江の頭を見下ろし――、無数の魚の生命を奪ったあと肉体を再生したのを目撃した。


「やっぱり完全に消滅させるのがベストだな」


 海の中から体を再生し姿を見せる安倍珠江へと視線を向ける。


「お前は……、一体――ッ!?」

「雷光塵!」

   

 最後まで言い切る前に、俺は莫大な生体電流を使い、手のひらに数億ボルトの刃を作り出し、女の体に振るう。

 上段から振るった雷そのモノの力である刃は、安倍珠江の体の全てを一瞬で消し飛ばした。


「――さて」

 

 俺は海の上で浮かんでいる黒い箱へと視線を向ける。

 その箱は、高清水旅館で見た箱にそっくりだが、呪符は消えており、何より色が黒から白へと反転していた。


「あれが福音の箱か……」

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