第195話 第三者side

 室内にけたたましく鳴り続ける速度警報音。

 それに伴い、加速を続けるタクシー。

 橋を超えたところで、段差から僅かに空中を対空したあと、走り続ける。


「(大丈夫なのかな?)」

「(わかんねーけど、運転手さんは自信満々だよな……)」

「(うん……)」


 凄まじい速度で公道を走るクラウンの車内は、殆ど揺れる事が無い。

 時速は100キロを優に超えているというのに。

 

「それにしても、厄介だな――。空を飛ばれると、どうしても振り切ることはできんからな」


 そう呟く運転手は、サイドミラーを常時確認しながら、ドラゴンが放つ炎弾を左右に回避させながら走る。


「お客さん。寝ている方を起こして貰う事はできますか?」

「――は、はい」


 スイッチが切り替わったあと、冷静に現状を把握し車の運転をする運転手に驚きながらも、都は自身の膝に頭を乗せて寝ている桂木胡桃を見る。


「胡桃ちゃん、起きて!」


 都は、胡桃の頬をぺちぺちと叩きながら何度も語り掛ける。

 寝つきはよく寝起きは悪いという特技を持っている胡桃であったが、さすがに何度も無理矢理起こそうと頬を叩かれた事で不快だったのか欠伸をしながら瞼を開ける。


「ごはん?」

「違うわよ。それよりも胡桃ちゃん、しゃんとして」

「え? う、うん……。体が重い……」


 結界内で生命力を奪われ気絶していた胡桃が中々、起きれなかったのは、睡眠を体が欲していたからであったが――、それを知る者はいない。

 寝ぼけた表情――、ハッキリしない意識の中で、唐突に響いてくる爆発音。

 

「――え? 何が起きているの?」


 流石の胡桃でも、爆発炎上が続けておきる異常事態に意識がハッキリとし、後ろを振り返る。


「ど、どらごん?」

「起きたようだな。お嬢さん、助手席に移動してくれ。――で、シートベルトをキチンと身に付けてくれ」

「え? あ、はい……」


 純也と都の間に座っていた胡桃は言われるとおり、運転手と助手席の隙間から助手席側へ移動し、シートベルトを着用する。

 それを運転手が確認したあと――。


「さて――、飛ばすぞ!」


 車は更に加速し――、市街地へと入ると、雫石川を渡っている橋――、県道258号線へとドリフトしながら車線変更を行う。

 川を渡ったあとも、ドリフトをしつつ湖沿いの県道へと車線変更をする。

 その際に、全員にGが掛るが、車の挙動を完全に制御下に置いている運転手の技能により事故を起こすこともない。




 ――そんな純也たちの車を追っているドラゴンの背中から、車の曲芸を見ていた安倍珠江だったモノは、苛立ちを隠さずに、車を運転している運転手に怒りの視線を向けていた。


「付けていた式神は、言う事聞かないし――、場所は式神との契約で分かったけれど、あの娘の体は無傷で手に入れる必要もあるから威嚇しか出来ない……、だけど少し脅せば車を停めると思ったけど……。厄介ね……。それに……、霊力の残り香を、あの運転手から感じる……。厄介ね。厚木が時間稼ぎをしていると言っても手を拱いていたら、あの化け物が、追い付いてくる可能性があるわね……。生贄になった、この体も、もう限界だし――」


 安倍珠江は、自身の体の半身が、焼け爛れ、腐り腐敗していく光景を目にしながら――、


「多少の無理は仕方ないわね……。本当なら無傷で、新しい二つの魂を――、二つの相反する力を宿せる肉体が欲しかったけど……。生きていれば再生させればいいわよね」


 邪悪な笑みを浮かべつつ、安倍珠江は、タクシーに体当たりするようドラゴンへ命令を下した。




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