第194話 第三者side
純也たちを乗せたタクシーは、裏道を通り盛岡市内から出たあと、国道46線の側道を走る。
順調かと思われた移動であったが、県道172号線に入り、御所湖が見えてきたところで、タクシーは突然、スピードを上げた。
突然、タクシーがスピードを上げたことで、急加速に驚いた都と純也は顔を見合わせる。
「どうかしたんですか?」
「後ろ! 後ろを見てくれ!」
「後ろ?」
純也と都は、後部座席から、後ろを振り返る。
すると――、20メートルを超える巨大な塊が純也たちの乗車しているタクシーを飛行しながら追いかけてきていた。
「――な、なんだ……あれ……」
さすがに結界内で化け物を見て来た純也も声にならない声を上げてしまう。
餓鬼などとは比べ物にならない存在感に圧迫感。
それは100メートルほど距離があっても、近くに見えるほどの大きさであり、恐怖を与えるには十分であった。
「あれって、特撮とかじゃないよな!? 夢じゃないよな!?」
タクシーの運転手も、異常な状況に必死考えを張り巡らせながら、アクセルをベタ踏みする。
矢継ぎ早に、運転手が言葉を飾らずに吐露するのも、それだけ切羽詰まっている証拠であり、純也や都にも、それは痛いほど伝わってきていた。
「くそっ! どうして、俺達を追いかけてきているんだ!」
タクシーは橋の入り口に差し掛かる。
すると、飛行し純也たちを追いかけてきていたドラゴンは、5メートルを超える炎の玉を吐き出す。
炎の玉は、凄まじい速度でタクシーに向かってくるが――。
「くそがっ! タクシー歴40年の運転を舐めるなよ!」
タクシーの運転手が、叫びながら巧みにハンドルを切りドラゴンが放った炎弾を避ける。
そして――、炎弾は道路に着弾し爆発――、炎上する。
「何が、起きているんだ? こんなの、現実じゃないぞ!」
すでに70歳近い男性は、バックミラーをチラリと見て溜息を漏らすとハンドルを掴んでいた指に力を入れる。
「お客さん。少し飛ばしますよ?」
「あ、はい……」
突然の変わり身というかスイッチが入った様子の運転手に、純也は気後れしながらも返事をし都と視線を交わす。
「(大丈夫なのかな?)」
「(わかんねーけど、たぶん大丈夫な気がする。日本のタクシー運転手の技術は高いってテレビでやってたし……)」
「(本当なの?)」
「(さあ?)」
純也と都がこそこそと話をしている間にも、タクシーは加速する。
すでに、タクシーのメーターは130kmを指しており、橋の上を走っているためか橋の繋目の上を通るたびに、振動で車体が跳ねあがる。
「お客さん、シートベルトの着用と、もう一人の寝ている方をキチンと抱いていてください」
「わかりました――って!?」
運転手からの指示を了承した途端、スキール音が鳴り響き――、それと同時にタクシーの真横にドラゴンが放ったブレスが着弾し、さらに車の前方の道路にも着弾し炎上をするが――。
タクシーは、爆発炎上し黒煙吹き上げる中から飛び出す。
「いまのって確実に当たってたと――」
「どうやら、奴さん。こちらの動きを止めようと手加減しているみたいですよ? お客さん、何か心当たりとかあるんじゃないですか?」
「それは……」
「即答できないってことは、何かあるんですね」
タクシーの運転手は純也と都の表情と二人が小声で話していた事から、自身が有り得ない事に巻き込まれたことを察するが――。
「……まぁ、その表情で何となく分かりますが――。伊達にタクシーの運転手を40年してはいませんからね」
「「ごめんなさい」」
耐えきれなくなり都が頭を下げる。
彼女は、自分達がタクシーの運転手を巻き込んだというのは分かっていたから。
それは純也も同じであり、まさか――、ドラゴンに追いかけられるとは思っても見なかったのだろう。
純也も謝罪を口にする。
そんな、どう見ても、まだ未成年の二人の子供の様子を見て、タクシーの運転手は、深く息を吸い込むと高鳴った心臓の鼓動を落ち着かせるように何度も自身の唇を舐める。
「わかりました」
タクシーの運転手は、それだけ語ると、ギアチェンジをしてアクセルを踏み込む。
それに合わせて車は加速し、社内には速度警報音が鳴り響く。
「運転手さん?」
「理由は分かりませんが、これが現実かどうかは分かりませんが、お客さんを乗せた以上、タクシー運転手の誇りにかけて目的地までお客さんを無事に送り届けますよ。まぁ、あれは何か知りませんが商売敵ってことにしておきましょうや」
タクシー運転手の口調が代わる。
「久しぶりに、飛ばしますぜ! お客さん!」
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