第187話

「あの、桂木殿。平城京らしき都市の中央に見えるのが、 画像で見たのと酷似していますけど高清水旅館ですか?」

「ああ、そうだな」


 平城京に似た都市の中央に存在する3階建ての高清水旅館。

 高清水旅館までは、碁盤目状に張り巡らされた規則正しく並ぶ路地が真っ直ぐに伸びていて辿り着くのは一見しただけでは簡単そうに見える。


「それにしても……、敵の本拠地だけあって魔物の数がとんでもないな」

 

 平城京の至るところに、オーガーやオーク、インプなどファンタジーに出てくるような魔物が総出でのごとく闊歩している。

 さらに空には、ガーゴイルだけでなく巨大なコオモリや――。


「サキュバスもいるな……」

「桂木殿……」


 ゴミを見るような目で見てくる住良木。

 どうして、サキュバスが数十匹飛んでいて、それを口にしただけで批難するような目で見られるのか謎だ。


「他意はないからな」

「桂木殿は、大きな胸が好きだと言っていましたから――、サキュバスは男を誘惑する魔物だと本で読んだことがありますので――」

「誰に聞いた? その情報っ! 誰に、聞いたんだ?」

「企業秘密です」

「――くっ」


 神社庁は、ずいぶんと俺に関しての情報を集めているようじゃないか。


「二人とも、こんなところで時間を費やしている時間はあるのかの?」

「アンタに言われたくないんだが?」


 俺は話しかけてきた厚木に言葉を返しつつ、先ほど、車の屋根を斬ったマチェットを腰から抜く。


「住良木は車のエンジンをかけておいてくれ」

「桂木殿。あれだけの魔物の数。車で突っ込んで強行突破は無理です。第一、上手くいったとしても死体で身動きが取れなくなります」

「問題ない」


 マチェットを上段に構えたまま、刃に体内で増幅した生体電流を収束させていく。

 刃は真っ赤に燃え上がり、帯電する。


「桂木殿……一体何を……」


 俺は住良木の呟きを無視し、身体能力を強化したままマチェットを強く握り閉め――、


「風雷波ッ!」


 ――音速を超えた速さで振り下ろす。


 前方に真空が発生すると同時に自然界の雷の数倍に匹敵する紫電が大気を破壊し――、空間を振動させ前方に破壊の雷を纏った巨大な竜巻を作り出す。


 巨大な竜巻は前方への指向性を持ち、無数の竜巻が集まり、音速で直進――、平城京を模して存在していた壁や建物、さらには魔物までをも呑み込み粉砕し、消し飛ばしていき、一瞬にして町の2割が消し飛んだ。


「まぁ、こんなもんか」


 完全に融解したマチェットの残骸を両掌から剥ぎ取り、地面の上へと捨て車に乗る。


「住良木! アクセル!」

「は、はい!」


 俺が作った高清水旅館までの直進の道。

 全ての建物と魔物を根こそぎ殲滅したからこそ生まれた道ではあったが――。


「信じられん。これが神の力とでも言うのか……。これでは時間稼ぎにも……」


 



 

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