第186話
厚木を乗せた後、高清水旅館へと車を走らせるが、数分するとポツリポツリと建物が見えてきた。
「あれ? 事前に確認していた情報だと、高清水旅館と高清水展望台以外は、建物は無かったはずですけど……」
「そうだな」
俺は、空から攻撃を仕掛けてくる変異して羽が4枚生えているカラスや、石造りのゴーレムをレールガンで倒しながら答える。
「やっぱり、この空間って……、何かおかしいですよね」
「もう別の空間ってだけでおかしいと思うが?」
「君達は、福音の箱と言っていたが……、それは本当なのかね?」
車に乗ったあと黙っていた厚木が、住良木との会話に割り込んでくる。
「はい、間違いありません」
別に俺は親切丁寧に答えるつもりはなかったが、住良木は馬鹿正直に答える。
そして――、その間にも茅葺屋根だった建物は、真新しく瓦の屋根を持つ建物へと変貌を遂げていく。
「それにしても、建物が進化するとは……」
さすがに、異世界のダンジョンでも、こんな奇抜な事はなかったが……。
「進化ではなく、追体験と言った方が良いのかもしれん……」
「追体験?」
「神社庁に席を置く神薙なら知っていると思うが、福音の箱が作られた由来だが、本来の用途はパンドラの箱を模したモノ。つまり、神が作ったパンドラの箱と同じものを作るために、人が作ったモノが、福音の箱になる」
「何のためだ?」
「桂木君、君も知っているだろう? パンドラの箱がどういったものかを」
「たしか、パンドラって女が箱を開けたら、あらゆる災厄が出てきたんだよな。それで、最後に残ったのが希望だったか」
「そう。その希望を手に入れる為に作られたのが福音の箱と呼ばれる代物だ」
「つまり、このアホみたいに魔物が襲ってくるのは、パンドラの箱を模して作ったからということか?」
「あらゆる災厄という部分が、いまの状況であるのなら、その可能性は非常に高い」
「面倒なことだな。それよりも、追体験ってどういうことだ?」
「桂木殿。おそらくですが、パンドラの箱を作るために蟲毒を行ったと思います。そして、蟲毒を行い、負の力を反転させる事で希望という力を手に入れようとしたのかと」
「意味が分からん。そもそも負の感情を反転させたところで正の力になるとは限らないだろうに……」
「それは、陰陽術の範囲にあるからだ。陰陽五行説というのを聞いたことは無いかの?」
「名前だけは聞いた事があるな」
「陰と陽は、互いに相互関係にあると同時に、反転させる事が可能なのだ。だから、パンドラの箱を模したモノを作る。だが、それだけでは不十分だと気が付いた者が、災厄を体験させる事で、本来のパンドラの箱に近づけようとしたのではないのか? と、考えられているのが、福音の箱になる」
「――で、追体験させるのは……」
「ああ。そうなる」
車が停止する。
突然、目の前には大きな窪地が出現したからだ。
そして――、目の前には巨大な都市。
「平城京ですね。これは……」
ポツリと住良木が呟く。
「つまり、あれか? 俺達を平城京に、ご招待ってことか?」
「もしくは生贄ってところだの」
「まったく――」
面白い趣向を用意してくれるものだ。
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