第183話

 警察の捜査車両は、東北横断自動車道を南下したあと、東へと走り続ける。


「桂木殿。遠野インターチェンジ付近まで結界で覆われているようですけど、どうしますか?」

「どうするも何も、行けるギリギリの所まで移動してくれ」

「分かりました」


 俺の指示に従い、住良木がアクセルを踏み込み車は加速する。

 警察の情報網も馬鹿には出来ないな。


「自衛隊も協力しているようですから。かなりの数のレーダーが使用されているようです」 

「そうか。そろそろ境界線上だ。車を止めろ」

「桂木殿」

「何だ?」

「私も同行して宜しいでしょうか?」

「駄目に決まっているだろう? 足手纏いは必要ない」

「ですが、日本国政府としては、首謀者を殺したのかどうかを確認したいと思っているみたいで」

「なるほど……。さっき電話来ていたのは、そのことか……」

「はい」

「難しいでしょうか?」

「俺は、お前の身を守ることは一切しない。それでも良いのなら付いてくればいいんじゃないのか?」

「これでも神社庁の霊能力者の中では神薙と呼ばれています。自身の身を守る術は心得ています」

「神薙?」

「はい。姫巫女様を警護する5人の神薙の一人です」

「姫巫女?」


 そんな存在がいるのか……。

 俺達の車が、巨大なレーダーを積んだ自衛隊車両の横を通過する。


「姫巫女様の事は申し上げることはできません」

「まぁ、俺や身内に害を及ぼすようなら殺すが、そうじゃないなら俺は基本、放置するから手を出すなと忠告しておけよ?」

「分かっています。姫巫女様は、桂木優斗殿には、一切、手を出すなと仰っておりますので」

「そうなのか?」

「はい。厳重に注意を神社庁全ての傘下組織に向けて勅命を出されています」

「なるほど……」 


 俺は、助手席の窓を開けて体を乗り出す。

 そして車のルーフに上がったところで車の天井に生体電流を足から流し、天井に足を固定する。


「そのまま、真っ直ぐに進め!」


 俺は叫びながら、腰からマチェットを引き抜く。

 そして体内で増幅した生体電流を、マチェットに注ぐ。

 マチェットは、膨大な電圧と抵抗により青白い雷を纏いながら、赤く――、灼熱色へと変わっていくと同時に肉が焼ける匂いが周囲に漂う。


「時空破断ッ!」


 音速を超えた薙ぎ払いは大気を焼き尽くし、空間を歪ませ――、真空と雷の衝撃を伴う斬撃を生み出す。

俺の斬撃は、結界の粒子の集まり――、その僅かな隙間を、斬り裂く!

 ガラスが磨り潰されて――、砕け――、割れる音が周囲に響き渡ると同時に、俺の斬撃は、幅20メートル、高さ100メートルほどの裂け目を作り出した。


「いまだ! アクセルを踏み込め!」


 風速に掻き消えないように俺は叫ぶ。

 俺の声は聞こえたようで、車は一気に加速し――、結界の中へと突っ込む。

 すぐに回りの景色は血で染められた空間へと変わる。


「――さて、ここからが本番だな」


 俺は溶解したマチェットを空へと放り投げる。

 音速を超えた速さで空へと投げられた俺のマチェットは、侵入者を殺しにきたのか、翼の生えた体高3メートルを超えるガーゴイル達を次々と粉砕していく。


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