第184話
「桂木殿?」
「お前は、車の運転に集中しておけばいい」
もう一本のマチェットを腰から抜き放ち――、生体電流を流す。
炎を纏った刃を素早く振るい、捜査車両のルーフを全て斬り飛ばし、電磁力により空中に押し留めたあと、コインの大きさまで瞬時にカットする。
いきなり車の天井が消えたことに驚いた表情で俺を見てくる住良木だが、俺は無視しつつ、後部座席に立ちながら向かってくるガーゴイルに狙いを付ける。
「レールガン! 連射ッ!」
増幅した生体電流により大気中に磁界を形成――、それにより天井の鉄板から切り出したコインサイズの鉄の塊を高速射出する。
数千に及ぶ鉄の塊が、赤い光跡を大気中に残しながら、次々と迫りくる石の石像を――、ガーゴイルを粉砕――、爆砕させていく。
「何故、こんなところに西洋の魔物が――。それよりも……」
運転の傍ら、車のルーフが無くなったことで空の様子が分かるようになったのか、住良木が呟くと同時に、引き攣った笑みを俺に向けてくる住良木。
「桂木殿。その攻撃は一体……」
「黙っていろ! お前は、道なりに走ればいい。しばらくすれば村が見えてくる」
「はぁ……わかりましたよ……」
もはや諦めた口調で俺の指示に従う住良木は、溜息をつき車のアクセルをさらに踏み込む。
俺は、それを確認したあと、波動結界を展開し、感知した魔物を片っ端からレールガンで始末する。
「何だ?」
視線の先――、やけに魔物が集まっている区画がある。
しかも、こちらには何の反応も示してこない。
それに――。
「生きていたのか……。住良木」
「分かっています!」
住良木が急ハンドルを切り魔物が集まっている場所へと車を飛ばす。
「さて――」
俺は走っている車から飛び降りると同時に空中でナイフを肩のショルダーバックから取り出し雷を纏わせて投げる。
放ったナイフは地面に突き刺さり爆発し、魔物たちの意識が俺の方へと向けられた。
「お前達の相手は俺様だ!」
地面に手をつき砂鉄を取り出すと同時に、鞭を形成――、さら超振動を付与すると同時に振るう。
それだけで数百の魔物が消し飛ぶ。
「桂木殿、どうやら厚木殿は、無事だったようですね」
「ああ、そのようだな」
俺は、札で結界を展開している厚木へと視線を向ける。
「君は……」
「無事で何よりだ。助けにきた」
「助けに……だと……」
「ああ。正式に依頼を受けたからな。まぁ、爺さんを助けに来たわけじゃないんだが――、まあ生きているのなら助けにきたという方が分かりやすいだろ」
「――え? 私には、自分の身は自分で守れとか――もごもご」
住良木の口を塞ぎ、俺は厚木へと視線を向けるが――。
「ふふっ。助けに来てもらって悪いが……、私は、ここまでのようだ……」
「これって……、桂木殿!」
片足を食いちぎられたのか、地面には血だまりが出来ているが――。
「この程度なら問題ないな」
俺は、厚木に近寄る。
「何を……する……つもりかね……?」
「救助すると言っただろう?」
「無理だ。この結界は、私が死ぬまで解けることは――」
無視し結界に触れる。
すると、俺が触れた結界が粉々に砕け散る。
「――なっ!?」
「この程度の結界なぞ、俺の前には何の意味もない」
俺は厚木の体に触れて、細胞を操作し瞬時に肉体再生を行う。
「どうだ? 一応、肉体修復と一緒に血液の量も元に戻しておいたが、違和感などはあるか?」
「……いや。だ、大丈夫だが……。君は、一体……」
「桂木殿は、神の力を有する神社庁の人間なのです!」
「神社庁だと!?」
「そして、私は神薙の一人で住良木鏡花と言います。元・筆頭陰陽術師の厚木厳十郎さん」
「私のことを知っていることか……」
「はい。何かあると思っていましたので、事前に調べさせて頂きました。それより、今回の騒動について、厚木さんは関与しているのですか?」
「――いや。私は何も……」
「おい。俺は神社庁の人間じゃないぞ」
「で、でも! 一応、うちのフロント企業には、桂木殿は登録していますよ!」
「それは表向きだろうに……」
「一体、君達は何を言って……」
俺は厚木の言葉に答えるかのように身分証を取り出す。
「日本国政府、内閣府直轄特殊遊撃隊の室長で警視監の桂木優斗だ。今回の事件に関して日本国政府から直接依頼を受けて調査及び解決することを目的に動いている」
「内閣府直轄だと……? つまり日本政府が既に関与していると……」
「そうなるな。だから、あとは俺に任せて車でまったりとしていてくれ。住良木、お前も神職なんだから結界くらいは張れるよな?」
「神職ですけど、神社庁の役所は神薙です……。それよりも、私を置いてきぼりにするつもりですか?」
「その方が俺としては楽なんだが?」
「それは困ります。それよりも、先ほどから倒している魔物ですが、西洋の魔物が多いように見受けられますが……。もしかしたら福音の箱のオリジナルがパンドラの箱だからでしょうか? その複製品だから、西洋の魔物が多いとか?」
「さあな。ここで語らっていても何も変わらないだろ。それよりもだ――」
俺は、厚木の爺さんの方を見る。
「どうして、爺さんがこんなところにいるんだ? どう考えても旅館と牧場の間で魔物に囲まれたって感じではないよな?」
牧場から旅館までは南下すれば到着できるが、俺達は、高速から北上してきた。
つまり、本来なら出会うことが無かったはずだ。
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