第181話

 元の席に戻り、内閣官房長官が総理に電話を初めてから数分――。

 チラチラと俺の方を恐怖な眼差しで見てきた時貞が電話を終えた。


「桂木君」

「ん?」


 ビクッ! と、体を震わせる内閣官房長官。


「――いや。あの……」

「はっきり言え。出来るかできないかを。まぁ、出来なかったら分かっているよな? 俺は、仕事受けない」

「さすがに120兆円を用意するのは難しいらしく……」

「――で?」

「10兆円で……」

「――で?」

「これ以上は……」

「ハアアアアアアアア」


 俺は盛大に息を吐きながら立ち上がる。

 まぁ日本政府が120兆円も用意できるとは思ってはいなかったが、まさか10兆円とはな――。思ったよりも短期間で払う気が出来たと思うべきか。


「分かった」

「――では!」

「だがな、遠野市付近で起きるかも知れない被害については、俺にはびた一文請求するなよ? 俺に払うのは、あくまでも仕事の依頼金だからな。日本を滅ぼすほどの問題を解決するのだから何が起きるか分からないからな。そこは理解してほしいんだが?」

「分かりました……」




 ――1時間ほどして会議が終わり、住良木と共に会議室を出る。


「桂木殿。さすがにアレはやりすぎです。完全に、日本政府から不穏分子――、もしくは……」

「危険分子と思われたってことか?」

「はい……」

「それなら、それでいいんじゃないのか?」

「――え? 桂木殿は、国を敵に回して問題ないと思っているのですか?」

「国? 一部の特権階級の連中を敵に回しているだけだろ? 第一、選挙で選ばれただけの人間が、国の力を自分の力と勘違いして脅してくる時点で滑稽以外の何だと言うんだ?」


 岩手県警の通路を歩きながら、俺は住良木に返答する。


「――ですから、身動きが取れなくなるのではと……」

「そしたら戦えばいいだけの話だろ?」

「――本気なの……ですよね……」

「まぁな」


 言葉を返したところで、携帯電話が鳴る。

 電話番号を確認すると、それは神谷からの電話番号。


「俺だ」

「神谷です。先ほど、日本国政府から正式に依頼が来ました。仕事の内容は、遠野市で発生しているパンドラの箱の複製品である『幸福の箱』がもたらした結界の破壊と、箱を盗んだ首謀者である安倍珠江の抹殺です。依頼料は2兆5000億円とのことです」

「分かった」

「桂木殿?」

「今、日本国政府の方から正式に俺宛てに依頼がきた。警察、神社庁、神主、俺で当分で分けた2兆5000億円が、俺への依頼料と言う事で話が纏まったようだ。どうやら、等分で分けると言う事を、聞いてはいたようだな」

「そうですか。それよりも桂木殿」

「どうした?」

「安倍珠江を殺すという話ですが、顔見知りを殺す覚悟はあるのですか?」

「何を言っているんだ? 俺の力を見る為に、パンドラの箱の複製品を使って結界を敷いてきたんだろう? だったら俺の敵だ。敵なら殺すのは常識だろうに」


 俺は肩を竦めた後、遠野市に向かう為に岩手県警を後にした。


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