第179話
官房長官が携帯電話での通話を切る。
「桂木優斗、君の要求は受け入れることはできないそうだ。いくら何でも法外過ぎると言うことだ」
神主達の落胆するような表情と共に、警察関係者は安堵な表情を見せる。
「――なら、俺は下ろさせてもらおう」
「だが、それなりの額は出そうとのことだ」
「どういうことだ?」
「警察は市民を守るのが仕事だ。そして、それに対しての対価である給料は常に支払っている。だから警察関係者と神社庁には、手当を出す事はできない。だが――」
神主達を見渡したあと、再度、俺の方を見てくる官房長官。
「神主の方々には、それぞれ1億円用意しよう。そして君には――、50億円用意しよう。それでどうかね?」
「話にならないな」
俺は会議室から出る為に扉へと向かう。
「桂木君!」
「何だ?」
背中越しに俺に話しかけてくる官房長官。
「君が、ここで戦わなければ日本が無くなる可能性があると言う事を理解しているのね?」
「理解していると何度も言っただろう? お前達、政治家は人の話を聞かないのか?」
「君こそ何も分かっていない。国が無くなり世界が危機的状況になれば、どうなるか分かっているだろう? それとも、君は善良なる日本国民が犠牲になることを容認するというのか? 君が、法外な請求をしてくると言う事は、この国を守るという気持ちが希薄と言う現れだ。先人たちに対して、恥ずかしいとは思わないのか!」
「まったく思わないな」
「どうして――、君のような自分勝手な人間に神が力を与えたのか理解が出来ない」
まぁ、そりゃ俺の力は努力の結果だからな。
神様なんてモノには、今まで一度も感謝もしたことない。
「俺は正当な対価を払えと言っているだけだ。その事に対して、先人へのリスペクトとか関係ないだろ? それとも、時貞。お前は、政治家としての給料に関して無償で働けと国民に言われた時に、すんなりと理解を示すのか? 国民に先人へのリスペクトが足りないからと言われたら反論できるのか? できないだろう? つまり、仕事の責任感というのは、対価に比例するんだよ」
俺は振り向く。
そして時貞の目を見ながら口を開く。
「別に、俺は国がどうなろうと知った事ではないし、見ず知らずの第三者が数百万、数千万、数億人、死のうと何とも思わない。それに、世界が危機的状況に陥った時に、日本以外の国に交渉して金を貰えばいい」
「貴様!」
俺の考えを聞いた時貞内閣官房長官の表情が変わると同時に『貴様』呼ばわりしてきた。
「まぁ、あとは好きにすればいいんじゃないのか?」
「――ッ! 貴様! 国の決定に背いて、自分の家族や友人の身の安全が確保できると思っているのか! どうなるのか理解しているのか!」
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