第178話

「君は! 今が! どういう状況なのか! 正しく認識しているのかね!」


 どうやら、俺の交渉相手の官房長官は、激怒した模様だが――。


「正しく認識しているから依頼料の交渉を申し出たんだが? それとも何か? 国の一大事なのに、タダで仕事をさせようとしているのか?」

「なん……だと……」

「桂木殿っ! もう少しオブラートに!」


 官房長官の横に立っている住良木が注意してくるが、交渉をするのは冒険者としては常識だ。


「分かった。20億円だ! 20億円で手を打とう! それで文句はないだろう!」

「文句は大有りだ! 国が大変な状況で、それを守るために働く人間に対して、たった20億円の報酬は少なすぎるだろ! 日本の国家予算くらいは積んでもバチは当たらないんじゃないのか?」


 少なくとも魔王軍に国が滅ぼされると知った国の国王とかは俺に魔王軍撃退の依頼をしてきた時には、王国の年間国家予算は出してくれたぞ?

 まぁ、かなり脅しはしたが。


「ふざけるな! 桂木! お前は、日本の国家予算が、どれだけなのか知っているのか!」

「100兆円だろ。そのくらい、日本銀行で刷ればいいだろうに。どうせ全部を一度に使う訳じゃないんだし、数字だって弄れば問題ないだろ。それに市場に紙幣が出回らなければインフレになる事もないからな」

「自分の国がどうなってもいいというのか!」

「自分の国の前に、俺は正当な報酬を求めているだけだ。たった20億円ぽっちじゃ、俺の借金は返済できないからな」

「貴様……」

「別に、怒るのは勝手だが、俺じゃないと、あの結界は突破できないぞ? ――で! 官房長官が、判断を遅らせるごとに被害が拡大していくと――。その辺、どうなのよ? 国の政治家として」

「少しいいだろうか?」


 俺と官房長官の話を聞いていた40代の神主が、官房長官へと話しかける。


「何かな?」

「彼は、一体、何なのですか? どうみても普通の高校生にしか見えませんが……」


 何時もの如く、俺を一介の高校生のような扱いをしてくる神主。

 さらには、大勢の集められた神主も同じように頷いている。


「桂木殿! 神域を展開してください!」

「ああ――」


 そういえば、その手があったか。

 波動結界を瞬時に展開した瞬間、神主たちの顔色が変わる。


「高畑殿。ご理解いただけましたか?」

 

 そう、住良木が俺のことを高校生にしか見えないと言った神主に話しかける。


「ああ。これは、間違いなく神域……。だが――、何故、彼のような高校生にしか見えない子供が……」

「簡単に説明しますと、彼は神の力を有している人間だからです。そのため、日本国政府は、彼に特別待遇措置をとっております」


 特別優遇措置をとっている人間に対して借金背負わせるとか、初めて聞いたぞ、そんなアホみたいな対応。


「つまり、今回の騒動の解決には神も力を貸してくれるという事ですか?」

「はい」


 自信満々な表情で住良木が頷く。


「ですが、その割には、お金にがめついような……」


 おっと、それは盲点だったな。

 ここは神主を懐柔しておく必要があるか。


「高畑殿」


 俺は、住良木の言葉を真似て男に話しかける。

 さらには――。


「――いや。それだけではない。ここに集まった神主達は、命を懸けて国を守ろうとしている!」


 俺は握り拳を作る。


「だが! 国は! お願いするだけで! 頭を下げれば、我々が、無償で働くと勘違いしている! つまり! やる気搾取だ! それは、いまの世の中を見て、普通にありえなくない! いや! 絶対にありえない! 命をかけているのだから! そして! 誠意というのはお金で払う事こそが誠意であり、誠意というのは、お金! つまり! きちんと仕事をした内容に対する報酬額である!」


 声高々に俺はスピーチする。


「さて! 俺は、100兆円を国に請求はしたが!! それは、何も、俺が一人で貰うモノではない!」


 ざわざわとざわめく会議室。


「ここにいる命をかけて国を守ろうとする神主諸君と! 封鎖を手伝ってもらっている岩手県警関係者! そして神社庁で、等しく公平に分けた後、各々の組織で分配するというのはどうだろうか! 俺はそういう意味合いで100兆円を請求したのだ!」

「なん……だ……と!?」


 絶句する官房長官。

 それに対して、呆れた表情をする住良木。


「どうだろうか? ここは、キチンとした報酬を貰うという確約をもらった上で、気持ちよく仕事を頑張るというのは! 良いと思った人間は立ちあがってくれたまえ!」


 よく冒険者連中を連れて大規模討伐行く前は、こんな風にスピーチしたな。

 そう思いながら、俺は神主達に意思決定を促す。


「最低でも億単位のボーナスが……」


 ボソッという声が聞こえてくる。

 それに釣られて、大勢の神主が互いの表情を見て――、次々と立ち上がっていく。

 ただ警察関係者の人達は渋い表情のままだ。

 そんな様子を見て頭を抱えている住良木。


「――で、官房長官。俺の依頼料は幾ら払ってくれますか?」

「総理に確認させてもらいたい」


 どうやら、俺の交渉は上手くいったようだな。

 






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