第177話
「では次に、力ある神主の方々に、お願いしたい事があります」
官房長官の話は続く。
「まず、神主の方々には、霊脈の流れの制御をして頂きたいと神社庁の方から提示がありました。住良木君」
「おい、呼ばれているぞ」
「そうですね」
立ち上がり住良木は、官房長官の横まで移動すると、会議室の中を見渡し一礼する。
「神社庁から派遣されてきまし神薙の一人、住良木鏡花と言います。今回、急遽、お忙しい中、召集に集まって頂いたこと感謝いたします」
彼女は、一呼吸おき、周囲を見渡す。
どうやら反応を見て言葉を選ぶらしい。
まぁ。その必要は無さそうだけどな。
霊力というモノを持つ神主たちから見たら、異界が勝手に広がっていく事態に危機感を抱くのは普通だろうし。
異世界でも、フィールドダンジョンが勝手に広がることを防ぐために、定期的に冒険者のパーティを複数組み、レイド戦で魔物狩りをしていたからな。
「今回、結界を作り出したのはパンドラの箱の複製品になります。宗教関係の学校でも呪術関係については神主様だけに伝えられるモノになりますが、福音の箱と呼ばれています」
住良木の『福音の箱』と、言う言葉の部分で、会議室内がざわめく。
「まさか平安京を滅ぼしたというアレか?」
一人の――、30代過ぎの男が言葉を口にする。
「はい。日本では平城京を滅ぼし、平安京に害が及んだ際に、安倍晴明により封印された福音の箱になります」
「それは、バチカンに輸送するはずだったのでは?」
「盗まれました。そして窃盗団により利用され、現在の状況になっています」
「馬鹿な! 強盗団が来る事を予測して警備をしていなかったのか!」
淡々と話す住良木に苛立ちを募らせていたのか、質問をしていた男が怒りを露わにする。
「今回の首謀者は、安倍晴明の直系――、阿倍珠江です」
「なん……だと……」
怒りから、絶句する男。
もちろん男だけでなく、俺の周りの神主たちも空いた口が塞がらない状態。
「首謀者が、福音の箱を盗んだ理由は不明です。ただし、神社庁と考古学研究所が古文書から調べた結果から効果が異なっている事から考えて、対策は急務と考えます。少なくとも、現在は時速4キロのペースで、異界へと通じる結界が拡大していますから」
「……つまり、あと、どのくらい時間的猶予があるのかね?」
声を上げたのは50代の男。
「現在、遠野市全域で市民の避難誘導が行われていますが、その数は3万人に及びません。ただ5時間後には、花巻市に結界が到達します。花巻市の人口は10万ほど。正直申し上げますと、避難が間に合いません。そこで神主の皆さまにお願いがあります。地脈――、霊脈の動きを、ここに集まった全ての神主様の力で堰き止めて頂きたいのです」
「それは、つまり堰き止めた力で結界を張れということか?」
「はい」
「冗談じゃない! どれだけの負荷が掛かるのか分かっているのか! 本当の地鎮祭ですら、馬鹿にならない霊力を消費するというのに、今回は、福音の箱の結界に拮抗する結界を作るなんて正気の沙汰ではない! 第一、堰き止めたとしても、そんなモノは1時間も維持できればいい方だ! その後は、どうするのだ? 解決方法が無ければどうにもならないだろうに!」
男は、肩で息をしながら席に座る。
そして――、会議室内は再度、静まりかえる。
「――ということだ。桂木君、君なら何とかできるかね?」
時貞守官房長官が、唐突に俺へと話を振って来た。
「まぁ、厚木の爺さんが術者を殺せば結界は止まると言っていたからな」
俺は席から立ち上がり口にする。
ただ、誰も俺を知らないのか不思議そうな目で見てくるばかり。
「桂木君。君は、結界の中から出てきたと聞いたが、それは本当かね?」
「まぁ、あの程度の結界なら切り裂くだけなら何とでもなるが消し去るのは、無理があるな。だから、首謀者を殺すという方向で話を持っていくのなら解決はしなくても事態の決着は付けることはできる」
「――という訳だ。神主の方々。貴方達には、彼が今回の首謀者である安倍珠江を殺すまで時間を稼いでもらいたい」
「私の方からもよろしくお願いします」
官房長官の依頼の後に、頭を下げる住良木。
それに対して俺は――。
「まあ、待て! 俺は、決着をつける事は出来るとは言ったが、その仕事の依頼を受けるとは一言も言ってないぞ?」
「――なっ!?」
驚く官房長官。
「ええっ!?」
素っ頓狂な声を上げる住良木。
「――ど、どういうことだ?」
神主の間に動揺が広がっていく。
俺以外の誰もが、俺の言葉に戸惑っている。
「決まっているだろ。幾ら払うんだ? 俺に依頼するってことは、それなりの依頼料を用意してくれないと困るんだが?」
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