第176話

「現在、ここに集まっている方々は、警察関係者の上層部の方が少数と、岩手県と周辺都道府県で神主をしている方の中で、力のあり、すぐに集まれる方を召集させて頂きました」

「なるほど……」


 俺は、岩手県警の会議室に集められたメンバーの顔触れを見て頷く。

 千葉県警で、各都道府県の警察関係者を集められた会議室では、ヤクザか犯罪者か見紛うまでの凶悪相な表情をしている人間ばかりだったか、今、この会議室に集められている人間は、普通の顔をしている。


「どうかしましたか?」

「――いや、凶悪相な面がないなと思っただけだ」

「あー。刑事課とか、暴力団対策課とか、人殺してそうな顔している人ばかりですものね。私も最初の頃は、警察署に仕事関係で出向いた時には、ヤクザの事務所が警察署内にあると思ってビックリしました」

「やっぱりか」

「まぁ、普通の一般人からしたら、顔怖いですものね。きっと、子供とか暴力団対策課に連れて行かれたらトラウマになりますよ」

「そうだな……」


 さすがの俺も、そこまでは言わないが、案外容赦ないな住良木の奴。

 俺と住良木が会話をしている事を他所に、内閣官房長官が話を続ける。


「まず現状を説明させていただきます。遠野市から北西の高台――、高清水展望台で発生した正体不明の異空間と繋がる結界ですが、徐々に勢力を拡大しつつあります。次に、考古学研究所からの報告と、現時点で神社庁から提供された資料を照らし合わせたところ、結界に呑み込まれた場所は異空間となっている可能性が非常に高いとのことです」

「高いというのは、どういうことでしょうか?」


 40代過ぎの男が手を上げて質問をする。


「あくまでも推論に過ぎないからです。現在、結界に呑み込まれた場所とは連絡が途絶しており、如何なる手段を用いても結界に干渉することが出来ません」


 官房長官の説明と同時にスクリーンが切り替わる。

 するとスクリーンには、遠野市の街並みが映し出され――、すぐに山へとカメラが向けられる。

 そして――、次の瞬間、幾つもの巨大な爆発が山裾で発生し――、それらがスクリーンに投影されていた。


「御覧頂いた通り、空対艦ミサイルを3発、結界に打ち込みましたが、結界には全く意味がありませんでした。このことから、結界には物理的干渉は効かないと日本政府は考えており、皆様のお力を借りる為に、この場を設けさせて頂きました」


 官房長官の言葉に後に会議室内が静まり返る。


「桂木殿」

「何だ?」

「桂木殿は、どう思いますか? あの結界に関して」

「俺に聞かれても対策案は提示できないぞ?」

「神の力を持っているのにですか?」

「万能じゃないからな」

「ですが、桂木殿は以前に『きさらぎ駅』の怪異の結界を破壊したと伺っていますが?」

「それは、それ。これは、これ」

「つまり、出来なくはないという事ですか?」

「あの時は殆ど偶然の産物みたいなモノだったからな」


 せめて魔力が満たされている空間だったら反物質を生成して、その威力で結界ごと破壊する事は可能だったかも知れないが、今回作られている結界には魔力が含まれていない。どちらかと言えば瘴気に近く、瘴気だと異界との繋がりが生まれかねない。


「まぁダンジョンがあればな……」

「桂木殿。現実逃避は、あとにしてください。それよりも桂木殿なら、何とか出来たりとかは……」

「何とかは出来ないな。解決は出来ないが、厚木の爺さんが言っていた通り首謀者が居て、そいつを殺すことで事態を収束させる事が出来るなら解決ではなく決着をつける事はできる」

「それは、安倍珠江ですか?」

「良く知っているな」

「あの人の桂木殿への執着は並々ならぬモノでしたから」

「おい、分かっていたのなら止めておけよ」

「神社庁の人間ならまだしも、商売敵の陰陽連に口を出せば大ごとになりますから」

「そうか」


 まったく面倒なことだな。

 


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