第155話

 ――5月初旬。


 現在、俺を含む妹や都は千葉駅のヨドバシカメラ前に集まっていた。


「はぁー。連休に、岩手県の温泉地に旅行って、良い所あるわよね」

「うん。でも、御兄ちゃんに手を出したから、当たり前だと胡桃は思うの」

「それは確かに!」


 一緒に付いてくる妹と都は、未だに安倍先生には良い印象を抱いていないようだ。

 しばらくして、ヨドバシカメラ前に一台のファミリーカーが停車する。


「お待たせ! うちの実家の従業員を手配してたら時間かかって――」


 車から降りてきたのは、超美人な教育実習生の安倍先生。


「いえ。送り迎えもしてくれるということなので、そこまでは気にしてないです」

「それは良かったわ。うちの従業員の烏丸(からすま)吹雪(ふぶき)よ」

「烏丸と呼んでください」


 どうやら従業員は、女性のようで運転席から降りてきて頭を下げてきたが、見た目からして、サングラスは付けているが、中々の美人だと言うのが分かる。


「これは強敵ね」

「ですね」


 そして、何故か都と妹は不穏な空気を醸し出している。


「それじゃ車に乗ってもらえるかしら?」

「あ、少し待ってください。知り合いも呼んだので」

「知り合い?」

「はい。ちょっと日頃からお世話になっている人なんですが、大丈夫よね?」

「え、ええ……」

「優斗!」


 タイミングよく俺の名前を呼びながらボストンバックを手に走り近づいてくる純也の姿が。


「えっと、彼は……」

「うちの学校の生徒です」

「あ、そういうことね」

「すまん。遅れた。おおっ! やっぱ、すげー美人だな! なあ! 優斗!」

「俺に話を振るな」

「安倍先生っ! 俺! じゃなくて、私! 峯山純也と言います! 桂木優斗の大親友です! ちなみに彼女、募集中です!」

「えlと。桂木君……」

「まぁ、宜しくやってください」


 若干引き気味の安倍先生に、俺は純也に関してのフォローは早々に諦めた。

 

「とりあえず、これで全員かしら?」

「そうですね」

「それじゃ、車に乗ってね。すぐに出発するから」


 安倍先生の号令で、俺達はファミリーカーに乗り込む。

 車は、すぐに走り出す。


「それにしても、優斗さまさまだな。まさか、あんな美人な人とお近づきになれるとは思わなかったぞ!」

「純也」

「どうした? 都」

「私は、応援しているわよ! 安倍先生と純也の恋を!」

「胡桃も応援してるの!」

「――そ、そうか? よく分からないが、がんばるぞおー!」


 俺は、一番後ろの席に座りながら前方で会話をしている純也と都と妹見ながら、純也は単純だなと、心の中で突っ込みをいれつつ目を閉じた。

 それから数時間。

 何回かの休憩を挟み、車は岩手県遠野市へと差し掛かり――、山を登っていく。

 しばらく山を登ったところで大きな建物が見えてくる。


「すっごい大きな旅館!」


 妹が目を輝かせながら呟く。


「大きいわね。えっと……旅館名は、高清水旅館?」

「そう。私の実家が運営している旅館になるわ。近くに展望台があるから、勉強の合間の気分転換に行くといいわ」


 旅館は3階建て。

 入口から入った駐車スペースには、車が50台は停まれるだけの広い空間がある。


「へー。大きいな。でも、ほかに車は停まってないな」

「今回ね、合宿ということもあって、実家に無理を言って一週間貸し切りにしてもらったの! だから、勉強を頑張りましょうね」


 助手席から、こちらを見て話しかけてくる安倍先生。

 それにしても、俺達だけで貸し切りとか、かなり贅沢な合宿になりそうだな。





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