第152話

 各都道府県の警察関係者の御偉いさんとの顔合わせも終わり、俺は神谷と共に千葉県警本部を出る。


「それにしても、刑事課の人間って顔が怖い人が多いよな」

「まぁ、仕事上、そうなりますね」


 神谷が、少し困った表情をしながらも同意を示してきた。


「そうそう。桂木警視監、これを――」

「これは?」


 渡されたのは、縦開きホルダー型の警察手帳。


「警察手帳になります。一応、宮原警視監が簡単に説明しましたが、こちらの警察手帳は常に携帯しておいてください。何か捜査を行う際には、必要となりますので。それと――」

「分かっている。年齢的に警察関係者というのはバレるとマズイから大っぴらに見せるなってことだろ?」

「はい」

「まぁ、俺には神社庁が作ってくれた派遣会社の身分があるからな。そちらを利用するから問題ない」

「神社庁とも取引しているのですか……」

「マズイのか?」

「本来ですと公務員は副業を禁止していますが……、桂木警視監なら問題ないでしょう。警察官としての身分を隠す為という理由もありますから。神社庁の件については、私の方から宮原警視監に伝えておきます」

「すまないな。迷惑をかけて」

「いえ。桂木警視監の秘書と言う立ち位置になりましたので、面倒事はたぶん私に全部回ってくるのは、この立場になった時に覚悟の上でしたので」

「ああ、なるほど……。俺が雇用主なら、神谷の給料を上げても良かったんだがな」

「本当ですか?」

「まぁ、迷惑をかける可能性も無きにしてあらずだからな」

「――では! 各都道府県の県警から仕事をたくさん受注しましょう! その報酬の一部を頑張ったご褒美で頂ければ、それで十分です!」

「お、おう……」


 そういえば、お金の話はしていなかったな。

 まぁ、各都道府県の県警が解決できない問題を解決できれば、それなりの報酬金を払うとか言っていたからな。


「それでは、桂木警視監」

「桂木でいい。神谷の方が年上だし、そう畏まって対応されても周りに変に見られるだけらからな」

「わかりました、桂木さん。まだ依頼は受けていませんが、各都道府県からの仕事を受けるにあたって指標にしたいのですが、桂木さんの出来る事を教えて頂けますか?」

「俺の出来ること?」

「はい。桂木さんの出来ることと出来ないことを明確にしておかないと、出来ない仕事を引き受けた場合に信用を失墜させる事になりますので。それは、桂木さんの秘書をする私にとって重要な事ですから」

「ああ。なるほど……そういうことか。それなら落ち着いて話せる場所がいいな」

「――では、こちらに」


 場所が千葉県警前だった事もあり、再度、県警本部建物内に足を踏み入れる。

そして通されたのは小さな個室。

 

「ここは……」

「取調室になります」

「……なるほど」


 あるのは机とテーブルだけ。


「ここでカツ丼が出てくるわけか」

「出てきません。それに自白に向けての利益誘導に繋がりますから禁じられています」

「それは夢が無いな」

「――では、事情聴取じゃなくて、桂木さんの出来ることを教えて貰えますか?」

「そうだな。今現在――、通常空間で出来る事と言えば、肉体操作と肉体修復、あとは大気の原子構成の再構築くらいか」

「――え?」

「だから肉体操作と、肉体修復と大気の原子構成の再構築だ」

「待ってください。も、もしかして……、桂木さんは原子を自在に弄れるのですか?」

「そうだが? だから肉体操作や肉体修復が出来るんだが?」


 コイツは何を驚いているのか。

 肉体を構成しているミトコンドリアや脳内のニュートリノに干渉すると言う事は、電子や陽子にも干渉する必要があると言う事だ。

 だからこそ、生体電流を操作する事も出来るわけだし、生体電流を操作できると言う事は原子をも操る事が出来ると言う事に他ならない。

 別に驚くことなどではない。

 そもそも波動結界の根幹を為すのは、人体を構成している30兆以上の体組織を構成している物質を自在に操り制御する事で初めて出来る事だからな。


「もしかして……、物質を金に変えることも?」

「まぁ、出来なくもないな」


 俺の言葉に、神谷が頭を抱える。


「桂木さんは、普通に金を生成して販売しているだけで生活していけるのでは?」

「それは、駄目だな」

「どうしてでしょうか?」

「色々と俺にもあるんだよ。とにかく、私的な目的で戦闘系に関する以外の事に関しての技術は、禁則事項だ」

「禁則事項……、それは誰かに決められているのですか?」

「さあな」


 俺は肩を竦める。

 まぁ、別に使っても『書庫の番人』に何か言われるような事は無いと思うが、俺の力は、そういう事に使う為に手に入れた力ではないからな。

 それに、この体では本来の力をまったくと言っていい程、引き出せない。

 きさらぎ駅という場所では、高濃度な魔力に満たされていたから、それを利用して2割程度の力を出すことは出来たが……、まぁ、それは特殊な事例だからな。


「つまり桂木さんは大抵のことは出来ると言う事ですか?」

「まぁ、何でもは出来ないな。出来る事しか出来ない。とりあえず、仕事を何でもいいから受けてくれ。悪いが、俺は警察がどんな事件が出来ないのか分からないからな」

「……わかりました。それにしても原子の再構築を人間が単体で出来るなんて……。それも神の力ですか?」

「まぁ、そんなもんだ」


 そういえば、神から俺は力を得た設定にしていたな。



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