第150話

 二人から離れて折り返し電話をする。

数コール鳴ったところで――、


「宮原です」

「桂木優斗ですが、何か用事でも?」

「ええ。少し時間はありますか?」

「それは、俺の借金についてか?」

「はい。それらも含めてという形になりますが、お時間を頂くことはできますか?」

「分かった。――で、それは千葉県警察本部に顔を出せばいいのか?」

「千葉駅まで迎えに行きます。フクロウ交番まで来て頂ければ、分かると思います」

「分かった」


 電話を切り、待っていた都と純也の元に戻る。


「どこから電話だったんだ? 胡桃ちゃんか?」

「いや、アルバイトを始めたんだが、登録派遣会社の担当から電話があったんだ」

「そういえば、胡桃ちゃんが言っていたな。お兄ちゃんが、派遣に登録したって……」

「それで優斗。何の仕事なの?」

「派遣元からの電話だから、まずは会社に行かないといけない事になった」

「マジかよ……、それって今日のカラオケの打ち上げは無しってことか?」

「そうなるな。すまん! 今度、何か埋め合わせするから! 都も、家までは一人で帰ってくれないか?」

「優斗。都は、お前の家まで送ればいいのか?」

「ああ、頼めるか?」

「任せておけ!」


 快諾してくる純也。


「優斗。帰宅時間が分かったら連絡頂戴ね」

「分かっている。派遣元の担当者との話が終わったら電話する」

 

 


 千葉駅に着いたとは、二人がバスに乗るのを見送る。

 理由は簡単で、俺の行動を詮索されるのを防ぐためだ。

 バスの姿が見えなくなったところで、俺は千葉駅前のロータリーにあるフクロウ交番に向かう。

 交番に近づいてきたところで、俺に気が付いたのか女性が頭を下げてくる。


「神谷が迎えにきたのか」

「お久しぶりです、桂木君。車は、こちらになりますので乗ってください」

「分かった」


 フクロウ交番の駐車場に停まっていた黒のセダンの助手席に乗り込む。

 車は、すぐに走り出す。

 運転手は、神谷幸奈。


「桂木君」

「何だ?」


 俺はシートに背中を預けながら、走り抜ける千葉駅前の風景を見ながら言葉を返す。


「現在の、貴方の日本政府の見解ですが――」

「俺のことは上には報告してあるんだろう? 借金を見て大体分かっている。日本国政府は、俺のことを敵としては見てないと言う事もな」

「そうですか」

「ああ。俺を敵だと認識しているのなら、暗殺者とか送り込んでくるのは普通の事だからな」


 実際、聖王国フェーンとかは女神と敵対した俺を殺そうと神官戦士を数百単位で送り込んできたからな。


「普通とは……」

「まぁ、色々とあるんだよ。色々とな――」


 生返事していると車は千葉県警察本部に到着。

 車から降りたあとは、神谷の案内で県警本部の一室――、会議室に通される。


「待っていたわ。桂木優斗君」

「俺に用事と言う事だが、何か問題でも起きたのか? 借金についての報告は住良木から受けているが?」

「ええ。一応、あなたが超常的な力を有しているという報告は受けているわ。ただ、千葉県警としては、貴方のことを採用したいと考えているの。そこは理解して欲しいの」

「それを言う為だけに、俺に電話をしてきて、このような場を用意したということか?」

「ええ。あと、貴方は自分が思っているよりも、ずっと日本国政府に強く認識されているから、そのような言い方は間違っているわ」


 つまり、会議室を用意して60人近い偉そうな中年に熱烈な視線を向けられているのも意味があるということか。


「桂木優斗君。貴方を、全国都道府県の警察で雇用したいと思っているの」


 そう宮原は話を切り出してきた。





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