第148話 第三者Side

 桂木優斗が、生徒指導室から出て行ったあと、ただ一人部屋に残された阿倍珠江は、溜息をつく。

 しばらくしてから、生徒指導室に先ほど出て行ったばかりの金木という教師が入ってくると、金木に視線を向けたあと、珠江は指を小さく鳴らす。

 すると金木の姿が、萎んでいき――、小さな人型に切り取った紙へと変化した。


「あれが、桂木優斗ね……」


 ポツリと呟いた珠江は、生徒指導室から昇降口の方を見降ろす。

 そこには、桂木優斗と、彼を待っていたのか一人の女子高生と男子高生の姿があった。


「随分と遠回りな接触方法を取られるのですね」


 校門の方へと向かっていく3人を見ていた珠江に対して声をかけたのは住良木鏡花。

 そんな彼女へ流し目を送り珠江は口を開く。


「神社庁には関係ないでしょう? それに、互いの省庁のやり方には干渉しないというのが不文律で決まったはずだけど?」

「別に苦情を言いにきたわけではありません。ただ、地域保全公務課としては、ずいぶんと慎重だと思っただけです」

「何を見て――、どう思っているのかは、神社庁には関係ありませんわ。それよりも、彼は本当に神域を展開できるのかしら?」

「どういう意味でしょうか?」

「言葉そのままの通りの意味よ。資料で、彼の能力は見させてもらいましたけど、どう見ても眉唾モノとしか思えないわ」

「その割には、色仕掛けをしていたようで――!?」


 白衣を着た黒髪の美女――、住良木鏡花は、二の腕を抱きしめながら、珠江に話かけるが――、途中で阿倍珠江から距離を取り、珠江を睨みつける。


「どういう事でしょうか?」


 珠江と住良木の間に出現した金色の雷を纏った巨大な虎。

 

「そう。それが普通の反応なのよね」


 満足するかのように珠江が呟くと雷を纏った全高3メートルを優に超える虎は消える。


「ここで式神を出すなんて――」

「別にいいじゃないの。一般人に対して出した訳でもないのだから。それにしても……、神社庁でもTOP10に入る実力者の住良木さんが、臨戦態勢に入るほどの式神を出されても、まったく動揺していなかったのよね。これって、おかしいと思わない?」

「桂木さんのことですか……」

「ええ。そうね」

「桂木さんは、霊視能力を持ちません」

「霊視能力を持たない? それって、どういうことなのかしら? 神域を展開できるのよね? それなのに、霊力の根幹で初心者なら誰でも持っている霊視能力を持たないなんてありえないわよ」

「ですが、それが事実です」

「ふーん。中々、面白い話ね。ソレ」

「だって、彼、空を移動できるのよね? それなら霊力を足場にして移動しているのなら、説明はつくけど、霊視能力が無いのなら、不可能じゃない?」

「それは、私に言われても困ります」

「そう。それは残念。――でも……力を見てみたいわね」

「下手に彼に手を出すことは神社庁も警察庁も良しとは考えていませんが……」


 そこまで住良木が呟いたところで、溜息をつく阿倍珠江。


「分かってないわね。私は、彼の実力が見たいの。あと、新参者の神社庁と警察庁は黙っていてもらえるかしら? 陰陽連は1000年以上前から国を守護してきた由緒正しい組織なのよ? まったく、神社庁も質が落ちたわね」


 そう呟くと、珠江は空中から扇を取り出すと開き口元を隠す。


「住良木さん。正直言いまして、神社庁の貴方とは話すことはありませんの。すぐに出て行って頂けますか? 出ていかないのでしたら――」


 脅しともとれる言葉を聞いて部屋から出ていく住良木。

 その後ろ姿を見送った珠江は小さく呟く。

 

「あの娘――、中々に面白い魂を持っているわね。たしか、神楽坂都と言ったかしら? あの娘が、危険に陥ったら力を見せてくれるかしらね? ねえ? きさらぎ駅の怪異を一人で解決した英雄さんは――」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る