第145話

「ただいま……」

「お兄ちゃん、おかえりなさい。どこまで行ってたの?」

「ちょっとな。ほら、これ」


 俺は確認しておいた50万円が入っている茶封筒を妹に渡す。


「教材を買うのに使ったんじゃないの?」

「全部、使う訳がないだろ。知り合いに頼んで、お金だけ渡しておいたんだが、とりあえずキャンセルしたから」

「そうなんだ……。何の教材を購入したの?」

「医学書関係だな」

「へー。お兄ちゃん、常に赤点取るようになったのに医学部目指すの?」

「一言余計だぞ」


 俺は、妹の額を軽くデコピンする。

 妹は額を抑えながら上目遣いで、「むーっ」と、お怒り気味だが無視して俺は台所へと向かうが――、


「優斗、料理の続き、私がやっちゃたけどいい?」

「ああ、すまないな。それよりも風呂から出たばかりじゃないのか? まだ髪の毛も――」

「うん。あとは、お願いできる?」

「任せておけ」


 中華料理を作ったあとは、都と妹ともに夕飯を摂る。

 そのあとは、ダラダラとテレビを見ていると俺が座っているソファーに妹が座ると共に頭を俺の膝の上に載せてくる。


「どうしたんだ?」

「ううん。何か、お兄ちゃん……隠し事しているような気がするの」

「気のせいだ」

「本当に?」

「本当の本当だ。俺が胡桃に嘘をついた事なんて無いだろ?」

「えっと……」


 妹の目が泳ぐ。

 そのあからさまな態度は、まるで俺が嘘をついているような……。

 まさか、俺の秘密に妹は気が付いたのか?


「だって、お兄ちゃん。エロ本とか隠しているよね?」

「何の話かまったく分からないなー」


 たしかに異世界に召喚される前は彼女も居なかった俺は、そういう関係の本を持っていたことがあったが、それは異世界に召喚される前の話だ。

 そして、それらの存在は妹にはバレてはいないはず。


「爆乳先生――」


 そんな都の声が、台所の方から聞こえてくる。


「ねね。お兄ちゃん。大きな胸は好きですか?」

「……一応、胡桃もDカップはあるんだけど?」

「とりあえずだ。そういうのは、中学生の胡桃には早いし、何よりも俺達は兄妹だぞ?」

「――つまり! ここはFカップの私の出番ってことよね!?」

「どうして、都が妹と張り合うんだ……」


 俺は思わず溜息をつく。

 それと共に、どうやら俺が異世界に召喚される前に秘蔵しておいたエロ系の本は、見つかってしまったと言う……。


「大丈夫! 私! 全部、分かっているから!」


 リビングに来た都が俺の横――、妹が座っている場所とは、俺と挟んだ反対側に座ると、抱き付いてくる。


「優斗も男の子だもんね!」

「ちょっと! 都さん! 私のお兄ちゃんを誘惑するの止めてもらえますか?」

「あら? 胡桃ちゃん。将来的には、私は、義理の姉になるのだから、義姉ちゃんって呼んでくれてもいいのよ?」

「呼びませんから!」

「それは残念。胡桃ちゃんが、私の味方になってくれると思ったから貴重な情報を流したのに」

「お兄ちゃんの部屋を利用してもいいとお兄ちゃんは言いましたけど、物色していい許可は出してないの!」

「そういえば、そんな話もあったわよね」

「お兄ちゃん!」

「ど、どうした?」

「そろそろ都さんを実家に送り返すべきだと思います! ここは、私とお兄ちゃんの愛の巣なのです」

「いや、そんなことないから」


 俺は、とりあえず突っ込みを入れておく。

 どうも、我が妹はブラコン気味な気が……、たぶん俺の気のせいだと思うが。


「もう! お兄ちゃんは、分かってないの! 都さんは、狼さんなの!」

「そういう胡桃ちゃんだって、雌猫じゃないの?」

「ムーッ!」


 本当に、この二人は仲がいいよな。

 




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