第144話
電話をしてから10分ほどで、乗用車が公団住宅入口前に停まる。
「お待たせしました」
ダークスーツを着た住良木が封筒を取り出し、俺へと差し出してくる。
「それにしても、結構な大金ですが、そんなに生活に困っておられるのですか?」
「その生活困窮者に20億以上の借金を背負わせるのは、俺はどうかと思うがな……」
「まぁ、桂木殿でしたら本気を出せばすぐに稼げるのでは?」
「伝手があればそうしている」
「桂木殿。これを――」
「ん? まだ何かあるのか?」
「はい。桂木殿は、奇跡の病院という都市伝説を作り出した方ですので、ある程度の病は治せるのですよね?」
「まぁな」
「それなら、臓器提供を待っておられる方を治療してお金を稼ぐこともできるのでは?」
「それはそうだがな……」
住良木から受け取った資料に目を通していく。
そこには支払い計画書と書かれたモノがあり――。
「日本では、現在、臓器移植を希望しておられる方が2万人近くいます。そして移植が受けられる方は年間でおよそ400人程度です」
「つまり、他は――」
「死を待つのみという状況です。その方々から、お金をもらい治療をすれば、莫大なお金を手に入れる事が出来ると言う事です」
「お前……」
「お気に触りましたか?」
「――いや。だが……」
思ったより多い。
それに、俺の力は金儲けの為に得た力ではない。
「あとは、神社庁が解決困難だと判断し立ち入り禁止にした区域の解決などですが……、どちらを選ぶのかは桂木殿の判断となりますが、桂木殿は霊を見る力が殆ど無いと言ってもいいので、あまり霊絡みの仕事は――」
「受けない方がいいと言う事か?」
「そうですね。霊を目で視る事が出来ないと言う事は、呪いも見る事が出来ないことですから。下手をすれば何もせずに死ぬこともありえます」
「まぁ、そのへんは気にしなくていい」
「そうなのですか?」
「ああ。自分の体調不良は分かるからな。そこからは調べることが出来る」
「何と言うか……、桂木殿は霊能力者としては、規格外の方ですよね」
「それは、良いとして――」
「はい」
「とりあえず臓器移植を希望して待機している人達への対応だが、受けても構わないが、術式を施行する前に資産状況と親の簡単なプロフィールをもらえるか?」
「それは、どういう事でしょうか?」
「請求する金額の参考にするってことだ」
「つまり高額に請求できる方には、高額な金額を要求すると言う事ですか?」
「まぁ、そうなるな。金持ちと、問題のある奴からは身包みを剥ぐのが、俺の冒険者ポリシーだからな」
「冒険者って……。桂木殿は、時々、その言葉を使いますよね」
「まぁな。それより――」
「分かりました。それで、桂木殿」
「何だ?」
「病を治療するにも病院があった方がいいと思います。特に、桂木殿は医師免許を持ってはいないですよね?」
「そうだな……」
異世界では医師免許なんてなかったからな。
まぁ、そもそも俺が治療する事が出来るのは減数分裂を経た個体だけで、異世界のような一つの器で構成されているような生物には意味は為さない。
「それでは、丁度いいので、奇跡の病院を買い取りましょう!」
「いやいや、あの病院とか幾らするんだ? 1000人単位で患者が入院できる病院を買い取るなんてありえないだろ」
「大丈夫です。すでに奇跡の病院については何の奇跡も存在していない事は国の方で確認が取れていますので。あと買取額ですが200億円程ですが、そちらは神社庁が立て替えておきますので」
「ん? それだと俺の借金が、また増えるのでは?」
「大丈夫です! すぐに返済は可能です。桂木殿でしたら! それに、どちらにしても、何とか支払いの目途を立てないと、毎年の利息を払うだけで大変になりますよ?」
「利息がつくのか? ちなみに何%だ?」
「えっと……、たしか年利12%ほどですね。桂木殿ですと毎年、ジャンボ宝くじを当てても借金が膨らんでいく金額です」
「――だ、だが……200億を追加したら……」
「ご安心ください! その為に私が、補佐役としているのですから!」
「全然、安心できないんだが……」
「それで、どうしますか?」
「はぁー、ドラゴンをぶっ殺して鱗とか売れればな……」
「ゲームの話はいいので、どうしますか?」
「分かった、わかったから。だが、病院の体裁を整えるためにも色々と必要だろう?」
「その辺に関しましては、山王総合病院を買い取った時に設備も全て買い取っていますので、流用しましょう。あと、桂木殿は医師免許を所持しておりませんので、自宅待機中の医師の方を全員雇用するという方向で――」
「待て待て、人材雇用って――、人件費って一番金が掛るのでは?」
俺は、思わず住良木の言葉を遮るが――。
「ですが、こういう場合は大々的に行った方がいいです。小さく行うよりも大々的に! その方が逆に疑われにくいモノですから」
「……分かった。とりあえず、その方向でやってくれ」
「はい。それでは神社庁の方から必要な資金の融資をする形で、東雲事務次官には伝えておきます」
住良木は頭を下げると、すぐに車へと戻っていく。
それにしても病院を買い取るとか……色々と面倒事になりそうな気がしないでもないが、気のせいだよな。
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