第142話

 屋上へと通じる鍵を開けようとしたところで、鍵が開いている事に気が付きドアノブを回してから屋上へと出る。

 屋上は、二つの校舎が空中渡り廊下で繋がっていることもあり、コの字で屋上も続いていた。


「これは、掃除が大変そうだな」


 元は、小学校だからなのか知らないが落下防止用のフェンスもついているし、屋上には至るところに雑草も生えている。

 これは他のクラスの人員が集まってから協力して雑草抜きと掃除をした方がいいな。


 俺はフェンスに近寄り、屋上から町の方を見下ろす。

 学校の裏手は、川が流れているが――、相当汚れているというのが一目で分かる。

 そして、学校周辺は一軒家が多い。

 

「あれだな……。買い物は駅前に行っているんだろうな」


 そんなベタな感想しか出てこない。

 あとは車で買い物か、その辺だろう。

 それにしても……。


「掃除道具が無いんだが?」


 担任の金木先生の話だと、屋上には掃除用具は用意してあるという話だったが、一切ない。

 そう影も形も。

 つまり、逆説的に言えば掃除はしなくてもいいと言う事になるが……。


「仕方ない。他のクラスの連中も来ないし、草むしりだけでもしておくか」


 屋上の草むしりを開始する。

 さすがに仕事を振られて何もしないというのは冒険者としては失格だからな。

 

「しかし、それにしても一人でやるのは無理があるだろ……」


 10分ほど草むしりをしたが、まったくと言っていい程取り切れてない。

 このままではクエストを完遂することは無理だ。


「仕方ない……」


 誰も見ていないなら問題ないだろう。

 肉体強化すると同時に俺は素手で草むしりを開始する。

 そして――、5分ほどで草むしりが完了した。


「はぁはぁ……」


 さすがに、腕が残像を残す速度で草むしりをしていた事もあり多少は息が切れたが――、Fランク冒険者時代に薬草取りをずっとしていた頃の腕は訛ってはいないようだ。


「――さて、あとはゴミ袋を貰いにいくだけだな。……それにしても誰も屋上に掃除に来ないとか、高校生になってまで掃除をしたくないってことか?」


 まぁ、そんなところなんだろう。


「そうとも限らないわ」

「居たなら居たと声をかければいいものを」


 俺は校舎内へと続く階段の降り口に姿を見せた住良木へと視線を向ける。


「つまり、俺が一人で掃除をしないといけない原因を作ったのはお前か?」

「私ではないけど……上の方がね」

「つまり、東雲とか、そのあたりか」

「そう言う事になるわね。私は、桂木殿の補佐役を任命されたの」

「補佐役? 俺は、仕事を受ける立場であって、補佐をされるような事は無いんだが?」

「そんなことないわ。それにしても、貴方、色々な事ができるのね。少し興味本位で見ていたけれど驚いたわ」

「まぁ、草むしりは得意分野だからな」


 伊達に異世界で薬草や毒草獲りを10年以上やってきた訳ではない。

 むしろ女神を殺す直前まで草むしりをしていたまであるからな。


「……そ、そう……。そこまで胸を張られて自慢されると、私も何も言えないわ」


 どうして、そこで若干顔を引き攣らせているのか、小一時間話をしたいところだが――。


「それよりも……だ。この状況を作ったのが神社庁として、そうなると俺に話したいことが何かあるんだろう?」

「桂木殿が話の腰を折るから、話が進まないのですけど?」

「やれやれ、すぐに責任転換をするやつだな」

「……はぁ、もういいです。それより、話の本題の続きです。本日付けで、神社庁の住良木 鏡花は、桂木優斗殿の補佐役として任命されました」

「だから、俺には補佐役とか必要ないと――」

「まずは、こちらが請求書になります」

「請求書? 何の?」


 俺は、分厚い封筒に入ったモノを受け取る。

 

「まずはご確認ください」


 仕方なく、俺は茶封筒を開けて中を見る。

 封筒の中には、ギッシリとコピー用紙が入っている。

 コピー用紙を封筒から取り出し、用紙に書かれている文字に目を走らせるが――、


「総武本線、沿線上被害請求書?」

「はい。一応は、行政が立て替えるという形を取りました。行政と言っても千葉県の予算からですので。まずは、全てに目を通して頂ければと」


 思わずゴクリと唾を呑み込む。

 嫌な予感が止まらない。


「まさか……」

「はい!」


 ニコリと笑みを浮かべる住良木。

 俺は用紙をペラペラと捲っていくが、書かれている内容は、ガラスが割れたとか支柱が折れたとか、テントが吹き飛んだとか色々とあるが……。


「27億5200万とんで80円……だ……と?」

「はい!」

「まさか……これは……」

「桂木殿が、『きさらぎ駅』の怪異を解決する際に、沿線上で起こした衝撃波による損害請求です」

「……いや、あれは千葉県警からの仕事で――」

「でも、神谷警視長からの報告ですと、「千葉県警からの仕事はパスだ!」と、言ったと、報告が上がってきています」

「そ、それは……」

「以上の点から、千葉県警では予算は出すことが出来ないということです。そうしますと誰に請求が行くかとなると、請求先は――」

「…………俺になると言う事か?」

「そうなります。ご理解頂けて幸いです」

「待て! いくら何でも一人に課せられる額としてはありえない額だろう?」

「ですが、桂木殿が払ってくれないとご自宅に請求書が……」

「分かった! 分かったから! 払うから! だが! 怪異を解決したんだから、それなりの報酬は出ても――」

「えっと……それですけど、桂木殿が神谷警視長に手柄を譲ったと言う事になっていますので難しいですね」

「……つまり」

「はい。神社庁としては、千葉県警とは仲は良くないので断りたいところだったのですが、どうしてもと頼まれましたので、今回は取り立て役を頼まれました」

「借金取りか……」

「いえ。滅相もありません。適切な仕事を振らせて頂きます。キチンと解決して頂ければ、報酬金が出ます。それで返済ができますので、ご安心ください。この住良木、桂木殿の借金返済の補佐役として頑張らせて頂きますね!」

「……お、おう」


 




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