第135話

「なんだと? 我を誰と――」


 ずいぶんと口が回るやつだ。

 まぁ、俺には関係の無いことだがな――。俺は身体強化をした上で、一気に黒の狼との距離を詰めると同時に跳躍し空中で半回転しながら右胴回し蹴りを顔面に叩きつける。

 吹き飛ぶ獣。

 空中を蹴ることで間合いを詰めたまま仰け反っている獣の腹を上から殴りつけ地面に叩きつけた。


 隕石が地表に落下したがごとく、周囲に撒き散らされる土砂と、爆風により根こそぎ吹き飛ぶ大木。

 それらを見下ろしながら俺は地面の上へと着地する。


「貴様……。口上の途中で……」

「敵の御託を聞ほど暇じゃないからな」


 ゆっくりと、漆黒の狼に近づいていく。

 大きさこそ巨大だが、俺が戦った神竜と比べたら雑魚同然だ。


「――くっ。人間の分際で! 神に近い我を倒せると思うのか!」


 巨大な腕を横薙ぎに振るってくるが、俺は意に介さず左手を手刀の形に構えると同時に振り下ろす。

 音速を超えた速度で振り下ろされた手刀は、神を自称する狼の巨大な腕を両断し――、発生した巨大な真空の刃が、大地を斬り裂く。


「ば、馬鹿な……」


 狼が、俺が斬り裂いた光景――、数百メートル先まで斬り裂かれた大地を見て数歩、地響きを鳴らしながら、俺から距離を取ろうと下がる。

 

「何を驚いている? この世界を作ったのは貴様だろう? ――なら、これから、この世界ごと消される貴様が驚く謂われはないだろうに」

「貴様! 一体、何者だ! 天照の使いのモノか……」

「天照? 知らんな」


 ジャリと言う音と共に、俺は狼との間合いを詰めるが――。


「待て!」

「ああっ?」

「どうだ? それだけの力! 我に付かぬか? 天照と関係が無いのなら、我と共に――」

「それは無理な相談だな」

「――ッ」

「貴様は、都に手を出した。つまり、貴様は殺す!」


 右手を――、てのひらを狼に向けると同時に体内で増幅した生体電流を収束させ放つ。

 それも位相を反転させた砲撃。

 直径数センチの反物質砲。

 獣に着弾すると同時に着弾した場所から後方が数キロに渡り、獣もろとも対消滅爆発する。

 一瞬、獣の汚い断末魔が聞こえたが、気にしないことにする。

 すぐに都の元へと戻り、彼女を抱きかかえた。

 それと同時に、異界の空に亀裂走っていき空が落下し――、途中で消え去っていく。


「主を失ったから結界が消えていくようだな。まぁ良くあることだな」


 そうしている内に、亀裂は異界全体に広がると同時にガラスが割れる音と共に、世界は光に包まれ――、気がつけば、どこかの浜辺に立っていた。


「ここは……」


 周りを見渡せば浜辺には、大勢の人が倒れている。


「桂木君!」


 もちろん、その中には神谷の姿もあった。

 ただ、その姿は血塗れでスーツなどもボロボロだ。


「どうやら無事だったようだな」

「あなた、私の姿を見て、そんな感想が言えるなんて、相当酷いわね」

「生きているのなら問題ない。それよりも、そっちにも狼が押し掛けたのか?」

「ええ。でも、貴方が身体強化してくれていたおかげで何とか市民を守ることは出来たわ。しばらくしたら狼は煙みたいに消えてしまったし……、桂木君が何とかしてくれたのよね?」

「とりあえずな」


 俺は肩を竦めながら答える。


「その娘が、貴方が守りたい人なの?」

「まぁ、そんなところか」

「へー」

「何だよ」

「何でもないわよ。それよりも――」


 そう言いかけたところで神谷が、砂浜の上に倒れ込む。

 

「か、体中が痛い……骨が軋む音が!」

「そりゃ普通の人間の体で常人の10倍の身体能力を使っていたら、人体への負担は相当なモノだからな」

「な、何とかならないの?」

「まぁ、何とかなるが……、とりあえず取引をしたいんだが良いか?」


 俺は神谷の骨が折れ筋線維が断裂していく音を聞きながら交渉を切り出した。


 



 

 

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