第134話
神谷と別れたあと、俺は防人と語った幽霊が語った道をひたすら走る。
都の手がかりはない。
だが――、今は行方不明者を追う事だけが、都を見つける手がかりと言ってもおかしくはない。
「都――ッ、無事で居てくれ!」
身体強化をしたまま、波動結界を展開し何か一つでも手掛かりを見落とさないようにし細心の注意をはらったまま走る。
しばらく走ったところで、太鼓の音が聞こえてくる。
耳を澄ませば、道から外れた高台に鳥居が見えた。
「あそこから音が聞こえてくるのか?」
何か手がかりがあればと、100段近くある階段を無視し跳躍――、鳥居を超えて境内の中心へと着地する。
途端に、ピタリと鳴り止む太古の音。
そして――、俺に向けて無数の視線が向けられてくる。
「なんだ? 人間なのか?」
一人の黒い着物を着た40歳過ぎの男が俺に近づいてくると声をかけてくる。
「そんなことあるまい。鳥居を超えて落ちてきたんぞ?」
「そりゃそーだ。あんな芸当が出来る人間なんて聞いたことないぞ」
「主様が新しく作ったモノじゃないのか?」
「ああっ。そうだったな。多くの人間を迷い込ませたからな」
「そうそう。莫大な命を糧に儂らの仲間を作ったに違いない!」
次々と、聞こえてくる声。
それと同時に、この世界のことについて知っているということは分かった。
何せ、多くの人間を『迷い込ませた』と、白状しているのだから。
「ここに、腰まで髪を伸ばしている黒髪の少女を見なかったか?」
「ん? 主様からの命令かの? そうだなー、そんなのも居たような……。まぁ、主様が、今頃は喰っているころじゃ――ん?」
そこで、ようやく40代~70代の男達の顔色が変わる。
「どうして、そんなことを聞くんじゃ?」
70代くらいの老人が俺に話しかけてくる。
その表情には警戒心が浮かび上がっていたが――。
「お前らには関係ない。その主の場所をさっさと教えろ」
俺の言葉が気に入らないのか次々と桑や鎌を持ち、立ち上がる男達。
その数は60を超える。
「お前。俺達の仲間じゃない。主様のことを主と呼び捨てにする……それない」
怒りを滲ませた声色で、俺を囲み言葉を吐き捨ててくる連中を見ながら俺は口を開く。
「もう一度言う。これは忠告ではなく命令だ。都は、どこにいる?」
「やっちまえ!」
俺を取り囲んでいた男が命令すると同時に、男達が包囲網を狭めて武力行使してきようとするが――、
「答えるつもりはないか。つまり、お前らは、俺の【敵】だな」
近づき鎌を頭上から振り下ろしてくる50代の男。
俺は肉体強化を行い、右手刀で鎌を砕くと流れるように左正拳突きで男の半身を吹き飛ばす。
さらに、その反動を利用し右上段回し蹴りで近づいてきていた男の首を蹴り飛ばす。
文字通り男の首は胴体を切り離され空中を舞う。
「な、なんだ……コイツ……人間だよな?」
「何を戦闘中に呆けている?」
俺は次々と、戸惑っている人の形をした獣を殺していき――、
「ま、まってくれ! 何かの誤解が――」
最後の一匹になったところで、腰砕けになり逃げようと藻掻く人間の姿をした獣が、棍棒から手を離し語り掛けてきた。
「誤解? 都は、どこにいる? さっさと答えろ」
「わ、分かりました。主様の巣は、トンネルの中に……」
男が指差した方角には、山があり――、目を凝らすと確かにトンネルが見えた。
「なるほど」
俺は男の首を手刀で胴を切り離す。
「なん……で……」
「敵は殺す。それ以上でも、それ以下でもない。お前達は、俺の都に手を出した。それ以上の大罪は存在しない」
地面の上を転がっていく人間の頭は、途中から狼の頭へと変わる。
すぐに俺はトンネルが存在する山の方へと向かう。
そして――、目の前にトンネルが見えてきたところで、唐突にトンネルは消え山林だけが姿を見せた。
「あれは!」
山林の中――。
木々の切れ目に、都の姿を見つけた俺は、さらなる身体強化を行い一瞬で都を掴んでいる黒く巨大な獣の前に躍り出ると同時に、獣の腕を手刀で切り飛ばし、都を取り戻す。
彼女を抱きかかえ、地面に着地したところで頭上から、戸惑いと怒りを含んだ声が落ちてくる。
「何者だ……貴様……」
突然、姿を現した俺に向けて漆黒の煙を体に纏わせた体高10メートルを超える狼が、威圧を込めて叫んでくるが――、それを無視し俺は獣の腕を両断し奪い返した都の体を確認した後、溜息をつく。
「強い負の感情を真正面から受けて意識を失ったのか……」
念のために心拍数、肉体の生命エネルギー、その他、細胞全てに至るまで確認していくが……異常はない。
「貴様――ッ」
「それにしても良かった。本当に……」
これで都に何かあったら……。
俺は――。
「我を無視するつもりか!」
「黙れっ!」
俺は殺意を込めたまま、自身の腕を振るう。
強化された俺の肉体が振るった腕は大気を押し出し――、巨大な狼は、数十メートル吹き飛び幾つもの大木を薙ぎ倒していく。
その様子を確認したあと、俺は都の前髪を触りながら――、
「良かった。本当に――」
そう――、呟きながら彼女を――、都を巨石の岩の上に、ゆっくりと降ろし寝かせる。そして俺は立ち上がりかけていた黒の狼へと視線を向ける。
――本当に、良かった。
俺が、これから行う行為を都には見られることはないのだから。
「馬鹿な……。今のは、何だ? 何をしたというのだ……。やつは、確かに人間のはず……。それに何故、我が配下は、ここに集まっては来ないのだ!」
「貴様の配下か?」
俺は、歩きながら巨大な狼を見上げつつ言葉を紡ぐ。
「貴様の部下の狼なら、全員、この手で殺したが何か問題でもあったのか?」
「なん……だと……」
「都を探していたら、襲ってきたからな。この場所を聞くついでに全員、殺した」
「人間の貴様がか……?」
「そうだが、何か問題でもあったのか?」
俺は答える。
「お……己! 人間の分際で! 生きて帰れるとは――」
憤怒の声。
怒りの表情。
それらを真正面から受ける。
そして指を鳴らしながら言葉を紡ぐ。
「何を言っている? 貴様こそ、生きて数分後に生を謳歌できるとは思うなよ? 都を喰らおうとしたことは万死に値する!」
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