第133話
――夢を見た。
私が、まだ私になる前の夢を……。
シヴァリエ・ド・ウル・リメイラール、それが私の本当の名前。
そして神楽坂都というのは、私が――、彼に会うために転生した肉体の名前だった。
最初に、彼に会ったのはよく覚えている。
勇者として、邪神として振る舞っていた女神を討伐する為に、女神の加護からの因果律から外れる人物を召喚した時のことを。
世界の理そのものである女神レイネーゼを倒すことは、アガルタの世界の住人では決して叶うモノでは無かった。
そして……、異世界から召喚される際には、必ず神の承諾を得る必要がある。
だから、その強力な枷をすり抜ける為に私は――、私の魂の半身である神楽坂都を、生贄にして彼を召喚した。
――全ては、アガルタの世界を喰いモノにしている化け物である女神を殺す為だけに。
でも、それは……。
私が思っていたよりもずっと過酷なモノで……。
「また、あの夢――」
途中で意識が浮上したところで、ゆっくりと瞼を開けると、そこは長いトンネルの中であった。
あたりを見渡すと、大勢の男女がトンネルの線路内で倒れていて――、近づき確認すると息はしているけど苦しそうな表情を浮かべている。
「生きてはいるけど……」
そこまで思ったところで、私は頭を振るう。
最近、へんな夢ばかり見る。
それも優斗が、別人のようになってしまってから。
それと同時に、何故か分からないけど……優斗を見ると胸が張り裂けると思えるほど痛く――、苦しくなる。
理由は、分からない。
でも、何度も何度も何度も、とても現実味のある夢を見せられて――、そして……、そのたびに、降りしきる血の中で泣き叫んでいる彼の姿を見せられて――、私は、それが、どうしても夢では無いように思えてならない。
――だから、何度も彼に聞こうとした。
何かあったの? と――。
だけど、優斗ははぐらかしてばかりで……。
「なんで、こんな思考しているの――、私ったら。それよりも、ここって……」
私は、いま自分自身が置かれている状況を把握する為に考えを巡らす。
たしか都市伝説に詳しいと言っていた人達が、この世界は『きさらぎ駅』だから、トンネルの先に脱出路があると、説明していて――、それで……、駅に残る人達と自力で脱出する人達で分かれて……、私は脱出する人達と向かうことを決めて――、それで……。
「思い出した。それで、トンネルを進んでいたところで意識が薄れたのよね……」
きっとトンネルの線路上に倒れている人達も同じだと思う。
でも、全員が意識を失って倒れるなんて普通はありえないと思う。
それに何より、どうして私は、こんなに冷静に物事を考えていられるの? と、不思議に思ってしまう。
「起きてください!」
私は、トンネルの線路上で倒れているのは危険だと思い、意識を失い倒れている人の体を揺さぶる。
だけど起きる素振りが見えなくて――。
「どうしよう……」
やっぱり駅で助けを待った方が良かったかも知れない。
だけど……、よく分からないけど……、私は夢の中で何度も見た。
優斗が、たった一人で、巨大な魔物と全身から血を流し――、泥に塗れながら、戦い続けてきた姿を――。
だから、彼には――、迷惑はかけたくなかった。
全ては私が招いた……。
そこまで思いが膨らんできたところで、私は額を抑える。
「何……何なの? これって……。どうして、こんな気持ちが……」
まるで自分の中に、もう一人の自分がいるような感覚。
もう一人の自分自身の感情に――、記憶に――、犯されているような……。
意味が分からない。
私は、何度も深呼吸しながら、自分の気持ちを――、思いをコントロールしようとしたところで――。
「驚いたな。まさか、これほど強い魂を内包している人間が、我のテリトリーに入ってくるとはな。僥倖である。人間、我の糧と成れ」
唐突に響いてくる声。
トンネルという暗闇であっても、その姿はハッキリと見えるというよりも感じてしまう。
明らかに人ではない存在。
「あ、あなたは……」
「ほう。我を見ても意識すら失わないとは……。気に入った。貴様の魂と肉体は、我の供物として最上級だ」
獰猛な獣を思わせる笑みと共に、漆黒の衣を纏った巨大な狼が姿を見せた。
すでに、先ほどまでトンネルだと思っていた場所は消えていて、周囲には森しか存在してなくて――。
「震えることはない。永遠の地獄の業火の中で痛みを感じると共に、我が力の糧となるのだから」
どこまでも深く絶望に彩られた声。
低く響く殺意を含んだ語りに私は膝から崩れ落ちる。
「たすけ……」
「ここは、我が領域。何人たりとも立ち入ることはない。絶望し――、汝らが生んだ闇に喰われ死ぬが良い!」
私を掴もうとしてくる手は、人を握りつぶすほど巨大で、獣の大きさも現実味がまったくないほど大きく、10メートルを優に超えていて――、
獣に掴まれると同時に、体中から力が抜けていく。
「ゆ……ゆうと……」
彼の名前を、無意識の内に私自身が呼んでいた。
それと同時に、私の意識は薄れていくと同時に――、途端に空中を舞うかのように体が軽くなり――、そして誰かに抱かれたという感覚あった。
朦朧とした意識の中で、私は瞳に映った姿を見て何故か分からないけど安心した。
そこには――、閉じかけた視界には確かに優斗の顔があったから。
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