第130話
作り出した足場を蹴りつけると同時に、一気に千葉駅の方に向けて移動する。
それに伴い衝撃波が周囲に撒き散らされるが、その音が俺達に届く前に、幾つもの足場を空中に生み出し、移動を続ける。
「たしか、千葉駅から秋葉原駅の間だったよな……」
神谷が、何か騒いでいるが、俺は無視しつつ波動結界を展開させつつ、音速を超えた速さで空中を移動し続ける。
「ふむ……」
俺は空中に留まったまま、眼下に見える秋葉原駅を見下ろしつつ思考する。
「…………ここって、もしかして東京? こんな短時間で――? まだ3分も経ってないのに? それに、空中で制止しているなんて……どういうことなの?」
「少し黙っていてくれ」
波動結界で、線路上を探知していたが、異常のある場所は、存在しなかった。
それはつまり巧妙に隠されているか、それとも俺が知覚できない方法があるのかの二つの一つ。
あとは――。
「駅から少し離れていたが、一か所だけ歪みがあったな」
とりあえず、そこに望みを託すしかないか。
俺は神谷と自身の肉体を強化したまま千葉駅の方へと向かい、移動を開始する。
そして、本八幡駅上空まで移動してきたところで、俺は空間に歪みがあった場所へと方向転換し、目的地にたどり着いたところで一気に降下する。
「あそこしか無いよな……」
「やっと、到着したのね……」
俺は建物の屋上に降り立ったところで、肩に担いでいた神谷を下すと同時に、波動結界が探知した歪みが存在する方向へと視線を向ける。
「はぁ―。もう、一体……何なのよ……。あなた普通じゃないわよ」
周囲を見渡しながら、神谷は俺への不平不満を口にし――、
「それよりも此処って、市川市役所第一庁舎の屋根の上じゃない……。もう、意味が分からないわ……」
「とりあえず行くか」
一人愚痴っている神谷を放置して行こうとしたところで、俺の服裾を掴んでくる神谷。
「ちょっと! どこに行くつもりなの? まだ、話は終わってないのよ?」
「何の話だ?」
「だから、勝手に行動しないでって話!」
「却下だと言っただろう。俺は、依頼を受けるつもりはない」
「――それは承服できないわ」
「貴様が承服しようと承服しまいと、俺には関係の無い事だ」
「……どうしても言うことを聞かないつもりなの?」
「何度もそうだと言ったが?」
「理由を聞かせてもらってもいいかしら? 何も、聞かされないままでは、流石に納得できないわ」
「仕方ないな。たしかな情報筋からのリークだが、どうやら俺の知り合いと乗客が場所は、今居る場所は、異界らしい。――で、かなり危険な状況にあると報告が上がってきたから、急いで対応しているに過ぎない。そして異界のことになれば、お前達では対処ができないし、素人に足を引っ張られれば助けられる者の助けられなくなる」
「つまり、貴方は私達を足手纏いだと?」
「端的に言えば、そうだな」
「……わかったわ」
「そうか。それなら、ここからは俺一人でやらせてもらう」
神谷は、捜査本部の責任者なのだから、彼女が納得したのなら問題ないだろう。
そう思い、市庁舎の屋根から飛び降りようとしたところで神谷が背中から抱き付いてくる。
「私も一緒に行くわ」
「お前は、人の話を聞いていたのか?」
「ええ。聞いていたわ。そんなに危機的状況に市民が晒されているのなら、本当の警察官が一緒に居た方がいいでしょう? 身分がシッカリとした者が一緒に居た方が、市民のパニックも抑えられると思うから」
「どうなっているのか分からないんだぞ?」
「桂木君。私は警察官なのよ? 警察官は市民の身を事件と事故から守るのが仕事なのよ? 出来る出来ないじゃないの。やらないといけないの」
「なるほどな……悪くない返答だ」
俺は神谷を抱き上げると、人目を避けるようにして市庁舎から飛び降り、神谷をアスファルトの上に降ろしたあと、前方に見える小さな藪へと向かう。
「桂木君、ここって……」
「何か知っているのか?」
「知っているも何も『八幡の藪知らず』って、有名よ? 人が入ったら出て来られなくなる……神隠しの伝承が存在する場所なのよ? こんな場所に何の用があるの?」
「都たちが行方不明になった線路上を確認したが、空間に歪みがあるような場所は確認できなかった。唯一、歪みを確認できたのが、ここだけだったからな。とりあえず、まずは此処を調査しようと思っただけだ」
「それって本気なの?」
「冗談では言わない」
俺は、神谷の腕を掴んで藪の中へと足を踏み入れる。
それと同時に、何かの結界に入った違和感を覚えると共に、周囲からは先ほどまで煩いほど聞こえてきていた車や雑踏な音が霧散していた。
「え? 音が……聞こえ?」
「音が聞こえなくなったというよりも何かしらの結界内に入ることが出来たと考えるべきだな」
「どうして、そんなに貴方は落ち着いていられるのかしら?」
「お前も、落ち着いているように見えるがな」
「貴方の態度を見ていると自分が慌てているのが愚かしく思っただけ」
「そうか。それなら、さっさと行くぞ」
神谷の腕を掴んだまま、藪から出ると視界が開ける。
まず視界に入ってきたのは、無数の田んぼ。
そして――、田畑の中心には、いつ老朽化から崩壊するか分からない小さな駅であった。
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