第129話
ドクン! と心臓が高鳴る。
まず脳裏に飛び込んできたのは、神楽坂都という名前で――、それ以外の名前が巨大なスクリーンに表示されていたが、それらは一切! 頭に入ってこない。
「どうして……」
俺は大きく目を見開く。
理解が出来ない。
何故? と、言う気持ちと感情と――、そして……、都が殺され喰われた時の光景が――、自身の手が血により真っ赤に染まった、赤と灰色だけの光景がフラッシュバックすると同時に――。
「どうして! 都の名前があるんだっ!」
「桂木優斗君。苦し――」
気がつけば、声を荒げていた。
そして近くに立っていた神谷の襟を掴み壁に押し付けていた事に気が付き手を離す。
「すまない」
思わず大きな声を上げたことで、静かに椅子に座っていたスーツ姿の男女が、俺と都の方へと視線を向けてきていた。
「けほっ、けほっ――。落ち着いてください。まずは、現状の把握が重要ではありませんか?」
「そうだな……」
近くの椅子を勧められて、俺はパイプ椅子に座る。
「では、説明を行いますので、桂木優斗君は、静かに聞いておいてください。ただでさえ、貴方は、警察庁のキャリア組の一部では有名ですので」
俺は静かに頷く。
都が居なくなったと言うこと。
その事情を確認することが最優先だ。
「神谷 幸奈です。今回、千葉駅から錦糸町の間で発生した大量誘拐事件の捜査本部の本部長を任されることになりました。事件の概要について調査は終わりましたか?」
神谷の指示が飛び――。
スーツ姿の男が警察手帳を手に立ち当たる。
「事件が起きた車両ですが、JR東日本に確認したところ、JR千葉駅の総武本線各駅列車で起きたことが確認できました。時刻は、昨晩の午後19時27分発の三鷹行きの列車とのことです」
「列車の乗客からの証言をとったところ、事件が発生した車両は6両目の車両とのことです。その際に、千葉駅のカメラで確認したところ乗客の数は50人前後。顔認証システムと携帯電話の追跡アプリから、乗客の情報を割り出しましたが、全員とはいきませんでした。現在、行方不明者の把握に全力を挙げています」
「そう。それで――、列車から乗客が居なくなったのは、何時頃なのかしら?」
「現時点で確認できるのは、秋葉原駅で7両目の車両の乗客が6両目には誰一人乗客が乗っていない事に気が付いたのが、最初となっています」
「つまり、それまでは誰一人として6両目の車両から乗客が行方不明になったことに気が付いた人はいないと言う事なのかしら?」
「5両目と7両目の乗客に話を聞きましたが、どちらも大勢の利用者がいましたが、6両目の乗客が消えた瞬間は見てはいないということです。あとJR千葉駅から、JR秋葉原駅の間に6両目には人が乗り降りした様子がカメラには映っていないとのことです」
「それは、他の車両に移動してから車両から降りたと言う事ではなくて?」
「そうなっています」
神谷と、おそらく刑事だと思う連中が、次々と現状起きている状況を確認していくのを眺めながら、俺は立ち上がる。
「桂木君! 話は、まだ済んでいないわよ?」
「十分理解した。何も、分かっていないと言う事は理解できた」
俺の言葉に、刑事たちが険しい表情を向けてくるが、無視して会議室を出る。
そしてすぐに山崎の携帯に電話をかける。
数コール鳴ったあとに、山崎が携帯に出た。
「俺だ」
「桂木さんですか? こんな朝早くからどうしたんですか?」
「伊邪那美に聞きたいことがある。電話を代わってくれ」
「何か、また事件ですか?」
「今は余計な会話をしている時間が惜しい。すぐに代わってくれ」
「分かりました」
こちらの意図を察してくれたのか――。
「どうしたのだ? 優斗。ずいぶんと急いでいるようじゃが……」
「居てくれて安心した。少し確認したいが、以前に死んだ人間の魂を、お前は感じとることが出来ると言っていたが――」
「ふむ。出来るが――、それは黄泉に居る時だからの」
「今は無理だと言う事か?」
「そうではないが、誰を探したいのだ?」
「神楽坂都の無事を確認したい」
「ほう。あの娘か」
「知っているのか?」
「まぁ、色々とな――。ふむ……黄泉には来ては居ないようだが……。どうやら現世からも隔離されている場所にいるようじゃな」
「つまり別次元に居ると言う事か?」
「そうなるのう。だが、場所までは分からん」
「それだけ分かれば十分だ。今度、情報提供してくれた礼に何か奢る」
「うむ。まぁ、汝には貸しがあるかのう。これからも多くな。だから、そこまで気にする必要はない」
そこで、俺は電話を切る。
どうして都のことを伊邪那美が知っているような口調で話していたかは気にはなるが、今は、それよりも都の身を探さないと。
俺はすぐに警察庁本部の建物から出る。
「桂木君!」
千葉駅に向かおうとしたところで、俺を呼び止めてくる声が。
「神谷か」
「桂木君。捜査本部が出来たのだから、勝手に行動されては困るわ」
「悪いな、時間がない。そっちは、そっちで好きにやってくれ」
「そういう訳にはいかないの! 警視監からも、貴方のことは頼まれているのよ!」
「ちっ――」
「舌打ちしないの! それと、急いでも何の手掛かりも無い状態なのだから、周辺の聞き込み調査を――」
「そんな時間はない。俺は、一人で活動させてもらう」
「そんな勝手は許さないわ」
「それなら、悪いが今回の依頼はパスだ」
「――え?」
「今回の事件は、警察が何とか出来るものじゃない。あとは、俺に任せておけ」
「そんな事、許される訳がないでしょ!」
「はぁー」
俺は溜息をつく。
面倒くさいな。
仕方ない。
神谷に近づき、彼女が身構える前に肩に担ぐ。
「ちょっと! 桂木君!」
「黙っていろ! 舌を噛むぞ!」
忠告しながら身体強化をすると同時に、俺はアスファルトを蹴り上空200メートルの高さまで一気に跳躍する。
「……え? う、うそ……」
「だから、黙っていろ!」
俺は生体電流を体内で増幅し――、大気中に分散させると同時に空間の粒子を収束させていき何もない空間上に足場を形成した。
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