第128話

 翌朝、欠伸をしながらパンに卵に水という軽めの朝食を食べ、俺は公団住宅の屋上へと上がっていた。

 理由は簡単で、異世界から戻ってきた時に、若返った影響からか大幅に戦力ダウンしているからだ。

 豊雲野神(トヨクモノノカミ)と、戦った時に、何とかなったのも大地に貯められていた地脈の力を取り込んで戦闘力へと変えたからに過ぎない。

 それでも、全盛期の力の5%も出せてはいなかった。


「――さて……」


 周囲に、気配や視線が無いのを確認したあと、丹田に力を入れ大気から酸素を取り入れると同時に細胞を活性化させたあと、修練を行う。

 1時間ほど修練を行ったところで、電話が鳴る。


「桂木優斗君でいいのかしら?」

「神谷か」

「ええ。少し、時間を貰ってもいいかしら?」

「それは昨日の件についてか?」

「その事に関しては、今回は、お咎め無しと言う事になったわ。それに富野氏に関しては、事件の供述を不自然なほど協力してくれているから。桂木君が、何かしたのかしら?」

「さあな。ただ一つ言えることは恐怖と言うのは、体が覚えているものだからな。少しでも恫喝しようと思えば、囀る可能性はあるかもな」

「なるほどね……」

「――で、俺に電話してきた理由を聞いても?」

「まだ学校は始まっていないのよね?」

「ああ。そうだが……」

「貴方に依頼をしたいの」

「依頼?」

「そう。桂木優斗君、貴方の力を見込んで依頼を出したいの」

「それは――」

「千葉県警からの正式な依頼と受け取ってもらっていいわ」

「ふむ……。それは、俺の戦闘力を見てということか?」

「そうなるわ。詳細については、千葉県警本部で行いたいと思うのだけれど、今日は予定は?」

「特にないな」

「そう。それじゃ、今から迎えに行ってもいいかしら?」

「ずいぶんと急だな? 急いでいるのか?」

「ええ。それも早急に――」

「分かった。それじゃ公団敷地へと繋がる入口で待っている」

「あと5分ほどで到着するから、用意して待っていてね」

「最初から、俺が断るという考えは無かったのか」

「だって、桂木優斗君のご自宅の経済状況はよろしくないでしょう?」

「人様の口座の金額まで調べるとか良い御身分だな。まあ、依頼なら、それなりの報酬は用意しているんだろうな?」

「そうね。それに――、この依頼は桂木優斗君にも関係のあることだと思うわよ」

「どういう意味だ?」

「詳しいことについては、千葉県警本部に到着したら話すわ」


 そこで電話が切れる。

 まったく……、最後まで説明すればいいものを……。

 俺は、妹に買い物に出かける旨を伝えると共に、公団住宅入口に到着した黒塗りの車へと乗りこむ。

 運転手は黙りこくったまま運転し、とくに会話もなく千葉県警本部に到着した。


「待っていたわよ。桂木優斗君」

「まずは話を聞かせてもらおうか?」


 俺の問いかけに神谷は答えることなく歩きだし、千葉県警本部の一室――、会議室へと通される。

 そこには30人ほどのスーツ姿の男女が座っており――、会議室の壁には巨大なスクリーンが貼り付けてあり――。


「神谷……」

「聞きたいことは分かるわ」

「どうして行方不明者リストの中に――」


 俺は、そこまで言いかけたところで口を閉じる。

 巨大なスクリーンには30名近い行方不明者の名前の中に――、神楽坂都と書かれた……、都の名前が存在していた。

 


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