第131話

「駅? こんなところにか?」

「何をしているの? って! 何を口にしているの!」


 神谷が慌てて話しかけてくるが、俺は無視し田んぼに生えている稲草をむしり取り口にしたあと、解析する。


「なるほど……」

「何がなるほどなのよ! ここが、どういった場所か分からないのに、自生している植物を口にするなんて何を考えているの?」

「――いや。この世界の理がどうなっているか確認したくてな」


 体内の細胞を操作し、取り込んだモノを消化しつつ俺は返答する。


「理って……。自生していた植物を口にしただけで分かるの? それとも、それも貴方が手に入れた神様の力の一つなの?」

「まぁ、そんなところだな」

「それで、何か分かったことがあるの?」

「そうだな。まず第一に、この世界に存在している見えているモノは、俺達が暮らしている地球とは理が異なっているという点だな。人間を含んだ生物というのは、無数の細胞の集合体というのは知っているだろう?」

「ええ。たしか人間の体には32兆以上の細胞が存在しているのよね?」

「ああ。だが、ここの世界に存在している物質を構成している器は一つだけだ」

「それって、どういう意味なの?」

「つまりだ。人間の場合は、32兆の器で人体が構成されているが、ここに存在している物質は1つの器でしか構成されていない」

「それって、まったく存在自体が違うってことなの?」

「それは当たり前だろ。まぁ、それでも似せて作っている辺りリアルティに凝っているというか……」


 俺は駅の方へと視線を向けたあと歩き出す。


「待って! それって、何の意味があるの? 世界の理が違うって、器の数が違うって、それって大きな違いなの?」

「大きいどころの話じゃない」


 そもそも、どうして異世界転生した際に、勇者や聖女が強大な力を得ることが出来るのか――、それは器の数が異世界人とはまったく異なるからに他ならない。

 俺が知っている異世界の人間と言うのは、魔法やスキルなどという超常的な力を有していたし、聖女としての力を覚醒した都も、器の大きさが原因だった。


 自身の人体を構成する器が多ければ多いほど、力を有することが出来る。

 ただし、それは使いこなせればの話だが……。

 俺が、異世界で女神と戦うことができるほどの力を得たのも、存在を定義する器の有無が大きい。

 

「それって、どういうことなの? 大きいどころの騒ぎじゃないって……。それと、本当に、ここに行方不明者がいるの?」

「行方不明者が本当にいるかどうかは分からない。だから、まずは、ここの世界に本当に都がいるのか確認するのが先決だな」


 俺は、器の部分に関しては意図的に避けながら、返答する。

 そして古びれ朽ちかけた駅が近づいてきたところで、駅入り口横に、越後のちりめん問屋の御隠居の恰好した老人が座っていることに気が付く。


「おやおや。お前さん達は、どうやってきなさったのかね?」


 視線を向けると同時に、話しかけてくる老人。


「ここが、どこか知っていますか?」


 唐突に姿を見せた老人に、神谷が話しかけるが――、


「儂は、どうやってきたか聞いたんじゃな」


 神谷の問いかけをはぐらかすように呟くと老人の姿が半透明になっていく。

 俺はすかさず老人の首を掴む。

 もちろん、粒子が分散しないように相手の存在に生体電流を利用した波動で干渉しながらだが――。


「おい。一度しか聞かないぞ? ここに数十人単位で人間が来なかったか? 神谷の問いかけに曖昧に答えるのは許すが、俺の質問に適当に応じたら存在を消し飛ばすぞ! 答えろ!」

「何者なのだ……儂に――、この儂に干渉できるなんて……」

「疑問を聞く気はないし、答えるつもりもない。聞かれたことだけを素直に答えろ。答えない場合には――」


 俺は、老人の首を掴んだまま、相手の存在を実体化させ物質として固定させた上で持ち上げる。


「わかった。答える! 答えるから!」

「素直に最初から囀っておけ。――で、最近、この世界に来た人間は居るのか?」

「居るが……」

「居るが?」

「すでに、ここからは何人かは離れておる」

「何人かは?」


 俺は波動結界を周囲に展開すると同時に駅の中に22人の人間の存在を感知する。

 ただ、その中には都の姿は見当たらない。


「――で、その何人かはどっちに移動した?」

「あっちだ」


 老人が指差した方角には、古びれた電話ボックスと、綺麗とは言えないが、まっすぐに伸びた舗装されたアスファルトの道があった。


「なるほどな。嘘ではないだろうな?」

「本当じゃ! 儂は防人! 嘘は言わん!」

「ならいい」


 俺が腕を話すと老人の姿が掻き消える。


「――さて、都を追うとするか」

「待って! 桂木君」

「何か問題でも起きたのか?」

「そうじゃなくて! 駅の中を確認しなくてもいいの?」

「問題ない。すでに確認済みだ。駅にいる人間は、全員生きてはいるからな」

「それなら、すぐに避難させないと……」

「避難か……」

「どうしたの?」

「どこに避難経路があるのかと思ってな……」

「え? でも、さっき通ってきた道を通って帰れば……。え? 藪が消えている!?」

「まぁ、そういうことだ。とにかく、俺にとっては都以外は、どうでもいいからな。ここは、お前に任せる」

「ちょっと! こんな訳の分からない場所に、置いていくつもりなの?」

「一言言うが、俺も、この世界は良く分かってないぞ?」




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