第120話
「住良木さん。彼は、まだ高校生なのですよ? それなのに、このような場に連れて来られて委縮しない訳がないでしょう? そういう言動は良くはありませんよ?」
「申し訳ありません」
「分かったのならいいのです。それでは、桂木さん、こちらへ」
東雲に案内されたのは、パーティションで区切られた一角。
フロアで言うと角の部分で、その場所だけ簡易的なドアが付けられていた。
中へと入ると小さな丸いテーブルと、オフィスチェアが4脚だけ置かれている。
「桂木さん、そちらへお座りください」
静かに、着席を促してくる東雲に従いオフィスチェアへ腰を下ろすと、続いて着物姿の東雲、リクルートスーツ姿の住良木が座る。
そして一呼吸置いたところで――、
「それでは桂木さん。まずは、再度、自己紹介させて頂きます。私は東雲 柚木と言います。神社庁 奥の院 事務次官を担当しております」
「――で、その事務次官さんは、俺に何の要だ?」
朝早くから尋ねてきたのだから何かしら火急の件なのだろうと言う事は想像がつく。
しかも、朝8時という一般家庭なら忙しい時間帯だ。
「単刀直入に申し上げますと、神社庁への就職の件になります」
「そういえば、そんなパンフレットを住良木から貰っていた気がするな」
「それだけでなく携帯電話もお渡ししておいたと思いますが?」
「そうだな」
俺は上着から住良木から渡されていた携帯電話を取り出しテーブルの上に置く。
「とりあえず事件は解決したからな」
返却するつもりでテーブルの上に置いた携帯電話に一瞬だけ視線を向ける東雲。
「たしかに、日向駅近くで起きた怪異に関しましては、桂木さんの御助力を得られた事は、大変に助かりました。それに関しては、神社庁の一同、感謝しています」
そう言いながら東雲は、巾着袋の中から封筒を取り出すと、俺の目の前へ差し出してくる。
「これは?」
「桂木さんにご迷惑をおかけしたお詫びと思って受け取ってください」
「ふむ……」
目の前に置かれた白い封筒。
それなりの分厚さがあるのは、一目で確認できるが――。
とりあえず中身を確認すれば、一万円札が束で入っている。
「口止め料も含まれていると言うことか?」
「ご理解頂ければ幸いですと、言いたいところなのですが――、警察関係者には、どうやら情報が漏れてしまっているようですので、桂木さんへの慰謝料と見て頂ければ幸いです」
「そういうことなら、受け取っておこう」
山崎から武器提供も受けたからな。
きちんとそれなりに礼を弾んでおくのも、付き合いが長く続く秘訣だからな。
上着の内ポケットに、金の入った封筒を入れておく。
「――さて、桂木さん」
目の前の――、東雲の雰囲気が変わる。
「昨日は、警察関係者の方とコンタクトを取られたようですが、どういう事でしょうか?」
「どういう事とは?」
「警察関係者の方と随分と親しい間柄だと言う事です」
居住まいを正し、話してくる東雲には何かしらの憤りのようなモノを感じる。
「相手から、接触してきただけだ」
別に俺には疚しいことなど何一つない。
「それで、警察庁本部まで行かれたと言う事ですか?」
「まぁな」
俺はおどけるようにして肩を竦める。
「桂木さんは、警察に属される予定なのですか?」
「一応、スカウトを受けたし、それなりの金額も提示してもらったからな」
「そうですか……。桂木さん、神社庁としては桂木さんの霊力の強さは非常に期待しています。そういう点も鑑みて、警察関係者との繋がりは避けて頂き、神社庁に入って頂きたいのです。住良木さんからも、貴方の霊力の強さ――、そして稀有である神域展開の能力の報告は受けておりますので」
「住良木……」
「桂木殿。私は、事件の報告を上層部へ上げる必要がありましたので――」
「分かっている。組織に属するって言うのはそう言う事だって言う事くらいはな。だが、一言欲しかったな」
「申し訳ありません」
「過ぎてしまったことは仕方ないからいい」
素直に謝ってきたので許しておくとしよう。
「――で、俺の力を宛てにして――、俺が警察関係者と繋がりが出来たことを含めて焦って、朝早くから俺の家に来たってことか?」
「そうなります。本当に申し訳なく思っておりますが、桂木さんの力は――、私達のような霊力を持つ選ばれた人間は、凡人には理解されず迫害されるのが世の常です。桂木さんは、まだ自覚を持っていないと思いますが、神に選ばれ力を与えられた人間というのは苦難の道のりを歩むことになるのです。そして――、それは決して凡人には理解されません。ですから、神社庁に入社されませんか? もちろん、それなりの対価はお支払いします。どうでしょうか?」
――選ばれた人間ね……。
俺は少なくとも選ばれてなんていないぞ?
そもそも霊力って何だよ? って、ところだからな。
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