第111話

「それは良かった」


 俺は、神谷が入れたコーヒーを口にする。

 

「これって、本物よね?」


 テーブルの上に転がっている俺の親指。

 それを凝視しながら、俺へと語り掛けてくる神谷。

 

「ああ、本物だ」

「痛く無かったの?」

「痛覚を遮断していたからな。特に問題はない」

「そう……。触ってもいいのかしら?」

「何なら進呈しよう。お近づきの印ってやつだな」


 そう言葉を返すと神谷の顔が引きつる。


「ねえ。桂木優斗君」


 俺と神谷が会話をしていると、ようやく俺に話しかけてくるくらいまで落ち着いたのか宮原が話しかけてきた。


「何だ?」

「貴方の力は見せてもらったわ」

「納得できたか?」

「ええ。十分すぎるほどに――。それと、先ほどに貴方が提示した条件を呑むことにするわ」

「随分と、譲歩してくれるようになったものだな」

「目の前で、こんな超常現象のようなモノを見せられて、それでも否定できるのなら、それは柔軟性に欠けていると思うからね」

「なるほど。――で、俺を雇用するかどうかは決めたのか?」

「是非に、警察庁で働いて欲しいわ」

「そうか。それで一つ聞き忘れていたんだが、公務員待遇なのか?」

「もちろんよ。むしろ、公務員として抱え込みたいわ。それも、すぐにでも!」

「分かった。それで俺の給料の話なんだが……」

「内容に関しては、神谷が伝えたとおり年収3000万円でどうかしら?」

「まぁいいだろう。――とりあえず、俺のポリシーに反する治療はしない事は理解してくれ」

「分かっているわ。それと、警察庁内での貴方の身分なのだけれど。まずは、巡査から開始して欲しいの」

「ほう。ちなみに巡査とは、どのくらい偉いんだ?」

「一番下っ端になるわ」

「なるほど……」


 つまりFランク冒険者からスタートということか。

 まぁ、余計な役職をもらって責任を押し付けられるよりはマシか。


「了解した。それじゃ、まずは警察官について桂木優斗君は、どのくらいの事を知っているかしら?」

「警察官についてか……」

「そういえば、深くは考えたことは無かったが警察に関しては、橋を封鎖できないとか事件は現場でくらいしか知らないな」

「そ、そう……。一応、都道府県警察採用試験については警察庁の方から手を回して何とかするけど、ある程度の基礎教養については学んでほしいわ」

「つまり、勉強をしろということだな?」

「ええ。まだ16歳ですもの。今から勉強すれば、すぐに覚えられるはずよ?」


 ――おいおい、俺の実力を知らないのか? 異世界で暮らしていた年月が長すぎて、sらに色々とあって、学校の抜き打ちペーパーテストでは、都ですら顔を真っ青にするほどの赤点を超えた点数を連発した男だぞ?

 だが――、男のプライドとして、それを伝えるのは……。


「まぁ、この俺様にかかれば司法試験ですら一発で合格まである」

「えっと……、桂木優斗君の中学時代の成績は中の下だったはずよね?」


 少しくらい見栄を張らせてくれてもいいんじゃないのか?

 

「まぁ、そういうこともあるな……」

「神谷警視長、桂木優斗君の教育係りを選んでもらえるかしら?」

「分かりました。宮原警視監」


 すぐに部屋から出ていく神谷の後ろ姿を見送ったあとで――、


「ところで、桂木優斗君」

「ああ、俺のことは桂木か優斗で好きに呼んでくれて構わない」

「分かったわ、桂木君。まずは契約書の作成をしたいと思うのだけれどいいかしら?」

「そうだな」


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