第112話
宮原が、ファイルから取り出し俺に書類を手渡してくる。
「嘱託? 公務員扱いではないのか?」
「いきなりは無理よ。特例措置であっても、きちんと手順を踏む必要があるのよね」
「なるほど……。――で、嘱託っていうのは、どういうモノなんだ?」
「そうね、一般的には、定年退職した人が企業に再雇用される事を指すことが多いけど、特殊な技能などを持つ人を引き抜いて直接雇用する際にも利用されることがあるわ」
「つまり、自分のところで雇用したい人材が居た場合に臨機応変に雇用できるように利用できる制度でもあるって事でいいのか?」
「そうね。ただ請負契約という側面もあるから、労働基準法が適用されない事があるわ。だから、頑張って警察官採用試験を突破してね」
「試験か……」
「自信がないの?」
「そういう訳ではないんだがな」
「冗談よ、冗談。警察庁からお願いして来てもらうんですもの。試験については受けてもらうけれど、そこは上手く合格するように手を回すから大丈夫」
「それは良かった」
「でもね。一応は、曲りなりにも警察官として所属する以上、それなりの教養は身に着けてくれないと困るの」
「つまり不祥事を起こさないレベルで、立ち回れるくらいには、警察官としての知識を身に付けろってことか?」
「そうなるわね」
まぁ、そう言った内容なら納得だが……。
もっとこう! 超法規的な措置とかで何とかならない物なのか?
「仕方ないな。あとは俺に勉強を教えてくれる人間に期待するとするか」
「理解してくれて助かるわ。それと、高校は卒業しておいてね。出来れば大学も、どこの大学でもいいから卒業してくれると、警察庁としても助かるわ」
「そのへん、警察庁の方から手を回して何とかならないのか?」
「経歴詐称は、公安が動くから」
「警察も一枚岩では無いと言うことか?」
「将来的には桂木君の場合は、それなりの役職に就ける予定だから、キチンと勉強して、キチンと大学に入って、ちゃんと卒業してくれると、こちらとしても助かるのよね」
「なるほど……厄介だな」
「警察庁としても出来るだけの力にはなるから、頑張ってね!」
「あいよ」
それにしても大学か……。
あまり将来について考えるような事は、ここ数十年なかったからな。
正直言って、ピンとこない。
「そういえば大学卒業を期待しているようだが、俺の予定されている役職ってのは、そんなに学歴が必要なモノなのか?」
「一応、桂木君は、将来的には役職としては警視を予定しているわ」
「警視ねー」
どのくらい偉いのか、サッパリ分からんが、たぶん偉いんだろう。
恐らくだが、警視監とか警視長よりも文字的には短いから、その下あたりか?
「不服かしら? それなら東京大学法学部を卒業してキャリア組として雇用されるのもありだと思うわよ?」
「東京大学って、あの東大か?」
「ええ。そうよ」
「いやいや、東大とか俺に無理難題を言いすぎだろう?」
「でも、まだ3年近くは勉強する時間はあるから? 警察官キャリア組の中では、優秀な人も多いからマンツーマンで教えてくれるわよ?」
「――いや、必要ない」
まぁ、最悪――、リオネデイラと契約をすればいいからな。
問題は、書庫の番人との接続が切れているというのが問題なんだが……。
「何か、良い事でも思いついたのかしら?」
「別に――。とりあえず、この書類にサインをすればいいのか?」
「そうね。お願いできるかしら? あと、給料の振込先を記載しておいてね。印鑑も」
「それは持ってきてないぞ?」
「後日、提出でもいいわ」
「分かった」
「あとは、これを常に所持しておいて」
「携帯電話か?」
「ええ。直接、私と神谷警視長の電話番号が登録されているわ。直接、ここに来られても、まだ16歳の貴方だと通してくれない可能性もあるから」
「つまり、事前にアポを取ってから、そちらから会いに来るということか?」
「そうなるわね」
「買い物とかも――」
「仕事には関係ないのは無理だからね?」
「分かっている」
俺は肩を竦めながら言葉を返す。
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