第109話
「……」
呆れた表情で俺を見てくる神谷は、眼鏡に手を当て直すと口を開く。
「それでは、交渉は成立と言う事でいいのですか?」
「そうだな」
「ふう。良かったです。それでは、話を詰めたいと思うのですが、一緒に付いてきて頂けますか?」
「まぁいいが――」
返答すると、神谷が、インカムを付けているのか――。
「こちら神谷です。最重要人物である桂木優斗君の了承を得ることが出来ました。配置していた特殊強襲部隊の撤退をお願いします」
特殊強襲部隊ということは、どこからか俺を狙っていたと言う事か?
そうなると俺の波動結界で拾い切れない程の距離からの探知外からの狙撃ということか。
「桂木優斗君。車を用意したから一緒に付いてきてくれるわね?」
「構わない」
「それと、言葉遣いだけど……、一応は公務員と言う形になるから、もう少し何とかならないかしら? 学生気分で居られても困るのよね」
「ふむ……」
学生気分か――、俺としては冒険者気分なんだがな。
「その……、受け答えもキチンとして欲しいのよね」
「悪いな。コレが俺の素だからな。直すことはできない。もし矯正したいのなら、警察に入ることは断らないと行けなくなるな」
「わ、分かったわ。それでは、付いてきてくれる?」
「分かった」
SOGOの立体駐車場の停めてあった黒塗りの車に神谷と一緒に乗ったあとは、本千葉駅の方へ向けて車は走り出す。
しばらく走ると本千葉駅前の交差点にさしかかる。
車は、ロータリーを左折し走り――。
「随分と大きな建物だな」
「そうね。一応は千葉県警察本部だから」
「なるほど……」
まぁ、冒険者ギルドも王都にあるギルドと地方の辺境都市にあるギルドだと建物の大きさは、まったく違ったからな。
車から降りたあと、県警本部の中へと入り、エレベータ―を乗り降りしたあと、会議室と書かれた部屋に通される。
「神谷警視長、任務ご苦労様でした」
部屋に入るなり、神谷に話しかけてきたのは、50代過ぎの年配の女性。
「はい。こちらの桂木優斗君は、こちらの要請を快く引き受けてくれました。桂木優斗君、こちらの方は――」
「始めまして、桂木優斗君。会話の内容は、すでにこちらで聞いています。私は、千葉県警本部長の、宮原(みやはら)由美子(ゆみこ)です」
「桂木優斗だ」
「桂木君。そんなぶっきらぼうな挨拶は……。宮原警視監に失礼です」
「いいのですよ。ところで少し話を聞きたいと思うのですが、宜しいですか?」
「構わない」
「そうですか。それでは、そちらの席に座って頂けますか?」
席に座ったところで、会議室のテーブルを挟み、宮原という女が椅子に座り俺を見てくる。
「桂木君は、こちらで調べた情報ですと年齢は16歳でいいのよね?」
「そうだな」
一応、公的機関に登録されている情報はそうなる。
俺と、宮原が会話を開始したところで神谷がコーヒーを入れて、俺と宮原の前に置くと、椅子を壁側まで移動した所で座り俺達を見てくる。
「貴方のプロフィールを確認させてもらったけど、中学卒業までは成績は中の下。身体能力は、日本の平均男性よりも下で、特質するべき才能は無いように見えます」
「随分とハッキリと言うな」
「桂木優斗君の話しぶりから見て遠回しに質問されるのは、嫌われると思いまして」
「なるほど……よく見ている」
「それで、桂木優斗君は、神社庁の方から、どのような形でスカウトを受けていたのか教えて頂けますか?」
「そちらが把握している内容のままだな」
「つまり治癒の力を持っているということで間違いないですか?」
「そうだな」
「なるほど……。それは、大いに助かります」
「助かります……か」
「何か引っかかる点でもありましたか?」
「まずは最初に言っておく。俺の治癒能力を当てにして採用するのなら、守ってもらいたい点が3つある」
「守ってほしい点ですか?」
「ああ。治療する相手だが、俺が気に入らない相手は治療しない」
「それは……」
「次に寿命で死にかけている奴には行わない。運命が変わると、色々と問題が起きるからな」
「運命ですか……」
「最後に、現在の医学では助けることが出来ない不治の病についても同様で、治療をすることはしない」
「それは運命が変わると言う事ですか?」
「そうなる」
俺の言葉に、沈黙する宮原。
「それは、つまり臓器損傷や臓器の交換など、移植手術を待っている方に対しては?」
「それについては治療しよう。運命ではないからな」
「つまり運命に関わる事に関しては治療が出来ないと言う事ですか? それは、桂木優斗君が、治癒の力を使う上での制限みたいなモノですか?」
「――いや、俺の決めた取り決めみたいなモノだな」
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