第107話

「さて――、どうしたものか」


 最近、妹が過激になってきている気がするから、やはり都には自宅に帰ってもらう必要があるよな……と、言うより、都の母親はよく俺の家での寝泊まりを許可しているものだ。

 本当に不思議でならない。

 

 俺が召喚された異世界だったら、男が居る家に泊まりに来ることなんて許されることは、ほぼというかまずなかったのに……。

 

「ここは、都の母親の静香さんに、これからのことをキチンと話した方がいいかも知れないな。良い年齢した男女が一つ屋根の下で暮らすとか、世間体から見てもマズイからな」


 部屋の壁に背中を預けながら俺は溜息をつきながらスマートフォンを取り出し、交通状況の検索を行う。

 

「やっぱり思った通り、千葉駅に向かうバスは、もうないか……」


 指定された時刻は午前0時。

 当たり前と言えば当たり前だが……、そうなると、千葉駅まで行く交通手段がない。


「仕方ない。走っていくとするか」

「お兄ちゃん」

「――ん? 胡桃か? どうかしたのか?」

「お風呂」

「そういえば、そうだったな」


 ガチャリとドアの鍵が開く音が聞こえてくると共に妹が部屋に入ってきた。

 そして――、俺は思う。

 どうして、都といい妹といい二人ともタオル一枚で俺の前に来るのかと――。


「お前、風邪引くぞ? まだ5月なんだから」

「……」


 ジーっと俺を見てくる妹。


「どうかしたのか?」

「なんでもない! お兄ちゃんのバカっ!」


 部屋から出ていくとバタン! と、ドアを閉める妹。

 まったく年頃の妹の感性が俺には理解できないな。

 対人戦の心理状況なら分かるんだが……。


「さて、風呂にいくか」


 風呂場で、まったりとしていると、外から何やら妹と都が言い争いをする声が聞こえてくる。


「やれやれ、脱衣場で何をしているのか」


 曇りガラスで、脱衣場で二人が何をしているのか分からないが、どうせろくでもないことをしているんだろう。

 風呂を出たあとは、妹と都に早めに寝ると伝え部屋に篭る。


「お兄ちゃん! 一緒に寝よーって!? ――あ、あれ? 鍵が掛かってる? ――って、開かない? どうして?」


 外から、何やら妹の声が聞こえてくるが気にしない事にする。

 そして部屋の鍵が開かないのは当たり前だ。

 内部から溶接したからな。

 これで鍵は回せてもドアを開けることはできない。


「胡桃、今日は、俺はゆっくり寝たいから簡易的な鍵を付けさせてもらった」

「ええええっ!?」

「どうしたの? 胡桃ちゃん。何をしているの?」

「別に何も……って!? 都さんこそ、枕を持ってどうして此処にいるんですか!?」

「え? それは、優斗と一緒に寝ようと思って」

「お兄ちゃんと寝るのは妹の特権だと言う事を都さんは知らないのですか?」

「何、それ? ブラコン?」


 何やら、外で言い争っている声が聞こえてくる。


「ブラコンじゃないですー。ブラマスです!」


 何か知らない言葉が出てきたが、一体全体、二人は何の話をしているんだ?


「ブラマスって何?」

「ブラコン・マスターの略ですっー。都さんは、そんな事も知らないんですか?」

「結局、ブラコンじゃないの?」


 都が、バッサリと突っ込みを入れている。

 俺も、その考えには共感せざるを得ない。


「違いますー! マスターなので、まったく違うのです」

「どう違うの?」

「都さん。ワインを批評するだけなら、誰でもできます。――ですけど! ワインを完璧に知り尽くして、それをお客様に提供する! それがマスターなのです! そして、ワインマスターを人はソムリエと呼びます! いいですか? お兄ちゃんマイスターである私は、お兄ちゃんソムリエでもあるのです。つまりブラコン・マスターというのは、程度の低い言葉遊びに違いないのです!」

「えーっと、理解が追い付かないのだけれど……」

「仕方ないですね。これからは、胡桃のことは、お兄ちゃんソムリエと言ってください」


 我が妹は何を言っているのか理解が追い付かない。

 

「とりあえず、お兄ちゃんソムリエの私としては、都さんは見習いレベルというか部外者なので、お兄ちゃんの部屋で寝てください!」

「胡桃ちゃん。私は、お金を払って、優斗と同居しているのよ? 胡桃ちゃんよりも、力関係は上だと思うけれど? お客様は神様って言葉を知らなくはないわよね?」


 都の話も理解できん。

 最近の若い女同士の会話は、こんなのものなのか?

 何十年も異世界で暮らしてきた俺には理解できないのか?



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