第102話

 都に返答したあと、俺は歩きだすが、すぐに俺は足を止める。

 理由は、目の前から歩いてきた男が、俺の行く手を阻むように足を止めたからだ。


「桂木優斗君。少し、お話を伺いたいのだが?」

「優斗、知り合いなの?」

「――ん? そ、そうだな……知り合いだ」


 都からの問いかけに、俺は途中で返答を変更する。

 

「そうなんだ……」


 男の年齢は、見た目は30歳前半。

 黒のスーツを着ていて服装は、葬式帰りのように見えなくもないが――。

 ただ、男は一瞬――、都に向けて殺気を放ってきた。

 それで、俺は男と会話することにした。


「都」

「何?」

「少し、スーパーの中で荷物の当番しておいてくれないか?」

「別にいいけど……」


 納得いかなそうな表情の都。

 それは、そのはず。

 一介の高校生にしか過ぎない俺が30代の男と知り合いというのもおかしな話だからだ。


「それじゃ、この荷物の当番頼むぞ」


 俺は、断られない内に、荷物を大型スーパーの入り口に置くと、男の腕を掴んで歩き出す。

 男は何も言わずに俺と共に歩いてくる。

 しばらく歩き、信号を右折し眼科を通り過ぎて小さな公園に入る。


「――で、俺に何の用だ?」


 俺は、不機嫌を隠そうともせずに男へと視線を向ける。


「そのような不機嫌そうな表情しないでほしい。こちらとしてもデートの時間を邪魔するつもりはなかった」

「デートじゃないが、とりあえず、どうして俺に接触してきた?」

「接触するとは心外だな。桂木優斗君」

「俺に直接接触してくる奴なんて、高が知れているからな。それよりも、あんたはアイツらの仲間なのか?」

「あいつら? ああ、神社庁の連中のことかな?」


 俺は頷く。

 それ以外に、俺に接触してくる連中に心当たりが無かったからだ。

 だが――、それ以上に都に対して殺気を放ったことが気にいらなかった。


「私は神社庁の連中とは違う。こういうものだ」

「警察関係者なのか……」

「そうなる。君のことは以前から調べさせてもらっていた」

「何のためだ?」

「単刀直入に聞きたい。君は人間なのか?」

「何を言っている?」

「現在、県警本部は、君を最重要人物として調査している」

「俺を?」

「ああ。ガードレールに残った血痕については君も覚えているかと思うが?」

「トマトケチャップのことか?」

「馬鹿なことを言ってはいけない。実戦経験の浅い警察官ならいざ知らず、鑑識が間違える訳がない。神社庁が、日向地域一体を超法規的措置により警察関係者が立ち入れないように封鎖したのだ。だから、君のことを調べるのに時間が掛かってしまった」

「……」

「桂木優斗君。君の家族構成は、妹さんの桂木胡桃さんと――、ご両親は海外に主張中という事で間違っては居ないと思う。調べる限りでは、君は中学時代に酷い虐めにあっていて身体測定も並の下。つまり、どこからどうみても普通の市民と代わりないという調査結果が出ている」

「――なら、それでいいんじゃないのか?」

「本来なら、それで良かったのだが……、ガードレールと、付近に飛び散っていた血の量は成人男性なら失血死していてもおかしくないモノだった。なのに、君は衣服には血は付着していたが、それ以外は何の怪我も無かったと報告書が上がってきている。コレは、明らかに矛盾している」

「……」

「次に、君が通っている学校では大規模な土砂崩れが発生した。それどころか山王総合病院では、不治の病の人々がある日を境に完治している」


 男は、そこまで口にしたところで俺を見てくる。


「君の身体も、車と衝突したあと、ガードレールにぶつかった時に即死に近いダメージを受けたが完治したと県警では見ている。つまり――」

「俺が奇跡の病院に関係していると言いたいのか?」

「正確には、君の完治の方が先だ。だから、君は何か奇跡の病院について知っているか聞きたいのだ」

「知らないな」


 俺は即答する。


「なるほど……。だが、県警としては日本国民を守る義務があるわけだ。そして――、日向駅周辺で起きた土砂崩れや、君が遭遇した交通事故は、何かしらの要因があると考えている。何か知っているのなら教えて欲しい。県警としては協力してくれるのなら、それなりの謝礼を払うことを約束しよう」

「――そんなことを言われても何も知らないんだが……」

「君が神社庁の巫女と知り合いという話は聞いている。何か、脅されているのなら、話を聞かせてもらいたい」


 まさか、県警が俺を疑うばかりか情報提供を求めてくるとは思わなかったな。


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