第100話

「どうしたの? お兄ちゃん?」

「――いや、奇跡の病院って、まだすごいニックネームだなと思っただけだ。それにしても、たしか山城家が理事していなかったか?」


 俺の呟きに、都が「あ! そういえば!」みたいな顔をする。


「うん。そうだね。国立にするってことは、国営だよね?」

「たぶんな」

「でも――、そうすると、山城先輩の家は病院を手放すってことになるのかな?」

「病院だけじゃないんじゃないか?」

「そういえば、学校の敷地も危険だからって国が買い上げる事になったんだっけ。さっきニュースで流れていたものね」

「そうだな……。ただ、学校の方については自宅待機から話しは進んでないから、どこかに移転する可能性の方が高そうではあるよな」

「うん。とくに別の学校への転入の話とか来てないものね」

「まぁ、そうなんだが……。あまりにも在宅が長いと勉強に支障が出るんじゃないのか?」

「うーん。私達、新入生は、まだ学校が始まったばかりだから大丈夫だと思うけど、山城先輩とか2年、3年はどうしているんだろうね?」

「そう言った話は、ニュースだとやってないからな」


 都と会話をしているとムスッとした表情の妹が立ち上がり、都とは反対側――、俺から見たら右側へと座ると頭を俺の膝の上に載せてくる。


「胡桃ちゃん!?」

「ふふーん」


 何故かお怒りな様子の都に、勝ち誇った表情の妹。

 この二人は、何をしているのか……。


 ――次のニュースです。

 

 どうやら、ニュースは別の話題へと切り替わったようだ。

 内容は、地球に接近している小惑星のニュース。

 

「ねえ、優斗。直径100キロはある小惑星って、地球に落下したら大変だよね」

「それは無いだろ。本当に、そんなことが現実的にあるのなら世界各国が騒いでいるはずだからな」

「それは、そうよね」

「まあな」


 都に勉強を教わる。

 そして――、気が付けば時刻は午後4時を回っていた。

 妹は、何時の間にか俺の膝を枕にして寝ていて――、起きる気配がない。


「今日は、ここまでね」

「ああ、すまなかった。勉強になった」

「どういたしまして」


 都はソファーから立ち上がると台所へと――、


「優斗は、今日の夕飯は何が食べたい?」

「特にないな……」

「それが、一番、困るんですけど?」

「都が食べたい物を作ればいいと思うぞ。一応、お客様だからな」

「そのお客様に料理を作らせる優斗って一体……」

「いや、お前が自主的に作ろうとしているんだから、俺が止める道理はないというか、止めたら失礼だと思ってな」

「もう……」


 都は呆れたような声色で呟くが――、その表情はどこか嬉しそうに見えるのは、俺の気のせいだろう。


「あれ? 優斗」

「どうした?」

「お米を炊こうと思ったんだけど、米櫃に、もうお米がないの」

「…………使い切ったということか」

「でも、優斗」

「どうした?」

「一週間前に色々と買って来たばかりだよね?」

「そういえば、そうだな」


まずいな。

ここ最近、肉体のカロリーの消費が激しくて、こっそりと米を炊いて食べていたから、米の在庫が!


「仕方ない。買ってくる」

「もう遅いよ?」

「まだ夕方前だから大丈夫だ。胡桃、起きろ!」


 俺は何度か妹の身体を揺さぶるが、まるで起きない。

 仕方なく、俺は体をズラして妹をソファーに寝かせたあと立ち上がり財布をポケットに入れる。


「とりあえず、買い物に行って来るから妹のことを頼む」

「――あ! 私も一緒にいく!」

「どうしてだ?」

「だって、業務用スーパーに行くんだよね? 千葉駅前の!」

「まぁ、安いからな」

「そしたら荷物持ちとか多い方がいいよね!」

「来たいならいいが……」

「それじゃ、置手紙をおいて、胡桃ちゃんに買い物にいくから留守番しておいてねって書いておくね!」

「そうだな」


 俺は先に家から出る。

 広場で、都が出てくるのを待ちながら外を見ると、まだ5月に入ったばかりと言う事もあり、日が落ちるのは早い。


「それにしても……アルバイトを探さないとな」


 いまは都と綾子からの臨時収入があるが、貯金だってそんなに多くないから、アルバイトをしてお金を稼ぐ必要がある。

 海外にいる親父とお袋は何をしているのか……。


「16歳で働ける仕事か……」


 これが冒険者ギルドが存在している異世界ならドラゴン一匹ぶち殺せば、それを換金しただけで家が買えたんだがな……。



  

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