第三章 呪われし異界の鉄道駅編

第99話

「はぁー暇よね」

「なんで、都さんは、いまだに家に居るんですか?」

「だって、ほら100万円払ったし……」

「そのお金はお返ししますから、お兄ちゃんと私の家から早く退避した方がいいと思います!」


 朝起きると、何時ものように、妹と都がリビングで言い争いをしている。


「まったく……」


 俺は、溜息をつきながら冷蔵庫から牛乳を取り出し一リットルを飲み干す。


「あ! 優斗! おはよう!」

「お兄ちゃん! おはようございます」

「二人ともおはよ。それよりも、朝から、よく飽きないよな」


 山城綾子と、そのお付きの人間が荷物を引き取りに来てから、すでに3日が経過している。

 

 俺はテレビを点けて、ソファーに座る。


「えへへ。優斗」

「あああっ! お兄ちゃんから、離れてくださいっ!」


 抱き付いてきた都が胸を腕に当ててくるのを見た妹は、目を吊り上げると、都の腕を掴み、俺から離そうと躍起になった。

 まったく、二人して本当に何をしているか。


 ――えー。一週間前に、山武郡日向駅近くの山王高等学校で起きた大規模な地滑りですが、日本政府は、土壌が不安定になっていると昨日未明に発表致しました。それと同時に、山王高等学校の移転が文部科学省の西郷(さいごう) 藤樹(とうき)大臣より先ほど話がありました。


「あれ? 優斗……これって……」

「どうやら、俺達の高校は移転するようだな」

「えええっ!? 日向駅までの定期とか買ったのどうするの!?」

「俺に聞かれても困る」


 ニュースでは、新しい移転先は報道されていないが、少ししたら連絡がくるだろう。


「――でも、私達の学校って通ってから一ヵ月も経ってないのよね?」

「そういえば、そうだな」


 よくよく考えたら、いまは5月初旬。

 高校側から学校の敷地の調査ということで一週間以上、在宅を命じられていたが、それでも一ヵ月も学校には通っていない。


「はぁ、何処に移転するのかな?」

「さあな。それよりも宿題だけもらっても教師がいないから勉強にならん」

「そうね。それよりも、優斗って、あんなに勉強できなかったけ?」

「それは言うな」


 ただでさえ、異世界に何十年も居たんだ。

 中学時代に習った公式とか勉強内容なんて、全て忘れてしまっている。


「でも、私が勉強を教えてあげているから良かったね! 優斗!」

「それは感謝している」

「お兄ちゃんの馬鹿さレベルが天元突破していて――、それが都さんが家に居座る理由になっているなんて……」

「おい、少しはオブラートに包め」

「――でも、御兄ちゃんがバカなのは確かなこと……」

「――クッ! それは否定できない」


 テレビの報道が流れ、それを聞き流し――、その間に都はテーブルの上に教材を並べていく。


「今日も、勉強か……」

「うん。お母さんがね! 優斗なら、勉強できる! って――、やればできる子! って、言っていたよ?」

「それは有難いような有難迷惑なような気がするが……」

「はい! 優斗、シャーペン」


 都は、ニコニコな笑顔で、俺にシャーペンを差し出してくる。


「お手柔らかにお願いします」

「ビシバシ! 鍛えるからね! 優斗!」

「――お、おう……」


 ――次に奇跡の病院についてですが、私立病院から国立病院へと変更される事になりました。

 日本政府は、奇跡の病院について個人の経営だと何かあった場合に対処が難しいという理由で国会満場一致で市民の安全の為に国立化に踏み切ったそうです。


「それにしても、すごいわよね。奇跡の病院って――」

「胡桃の中学でも、すごい話題になってます!」

「そうか」


 それにしても、高校にはピラミッドがあるから移転は仕方ないとして、病院の方にまで国が関与してくるとはな。

 もしかしたら、思っていたよりも日本政府は、今回の問題について深く動いているのかも知れないな。


 


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