第92話
放たれた銃弾は雷を纏いながらドラゴンへと変化した神――、豊雲野神(トヨクモノノカミ)の額に到達する前に蒸発する。
「――何?」
「無駄だ! 我の身体は、神の炎により守られている! 人間が、我に傷をつけるなぞ不可能!」
その言葉に、俺は眉を顰めると共に、地を蹴り高速で飛来してくる炎弾を避ける。
「なっ!? 先ほどまでとは明らかに動きが違うだと!」
「これで!」
もうナイフを戻すと同時に、もう一丁のデザートイーグルのグリップを左手で握り、2丁のデザートイーグルの銃口をドラゴンと化した神へと向けて放つ。
連続射出されたレールガンは、神が纏う炎熱により蒸発し残光だけが残る。
つまり物理的な攻撃は、ほぼ効かないということか?
「やれやれ――」
「理解したか? 神には届かぬと! 人間の矮小な力なぞ無意味だということを!」
「いいや。ちょっとスマートじゃないから、あまり使いたくないだよな」
俺は、両手の指を鳴らしながらドラゴンへと視線を向ける。
「何? 貴様、武器も持たずに我と相対しようというのか?」
俺はコートを脱ぎ、ベストを脱ぎ、Tシャツを脱ぐ。
完全に上半身は裸。
「それだけの熱量だと、逆に着ていると危険だからな」
「何を言っている? 貴様……」
俺は、体内の細胞内のミトコンドリアに命じ細胞分裂とテロメアの設定を行うと同時に、身体と視神経強化を行う。
さらに、それだけではなく骨の原子構成を圧縮していく。
「敵に、語る必要があるのか?」
俺は大地を踏みしめピラミッドの頂上へ向けて跳躍する。
さらに電荷の操作により大気の粒子をコントロールし足場を形成――、それを踏み台として跳躍し、刹那の時間で距離を詰め――、拳をドラゴンの額へと突き出す。
俺が放った拳は、神の炎により、一瞬で表皮が炭と化すが――。
――ドンッ!
大空洞を揺らすほどの巨大な振動と共に、ドラゴンと化した神の身体が吹き飛ぶ。
ドラゴンは、吹き飛びピラミッドから転げていき、地面へと地響きを立てると同時に叩きつけられた。
「なん……だと……!? ば、ばかな……」
俺を見上げてくる神。
「何故だ! 何故、五体満足で存在していられる? 神の炎は――、太陽と同じ……」
「そうか。それは良かったな」
すでに、俺の肉体は修復を終えている。
俺の身体が燃えなかった理由は簡単。
燃えるよりも早く細胞を増殖させ肉体を高速再生させていただけ。
俺は、さらにピラミッドを走り速度を上げていく。
「姿が見え――グハッ!?」
俺の拳がドラゴンの口を粉々に粉砕する。
「何故だ? 何故に攻撃が当たる? 無形の存在である神である我に――」
俺は答えるまでもなく次々と拳を連打しドラゴンの身体を粉砕し、前蹴りでドラゴンを後方――岩盤まで吹き飛ばす。
「ありえぬ……、神たる我が……。このような矮小な存在に……。しかも、素手でだと……。このような屈辱……、許されるわけがないっ!」
怨嗟とも言える咆哮と共に、黒く光る波動が、神を中心に放たれた。
それは避けることが不可能な全方位の攻撃とも言えるモノ。
俺の肉体の表皮が一瞬で崩れ――、そして細胞が死滅する。
「フハハハハハっ! 豊穣の力を見たか! 愚か者め!」
「ああ、見させてもらったぞ」
皮一枚で死滅した細胞――、その下から一瞬で細胞増殖させ修復させた俺は言葉を返す。
「……あ……、え? ……き、貴様……死んだはずでは?」
「何を言っているんだ? この俺が殺されたくらいで死ぬ訳がないだろう?」
俺は地面に手を付き、体内で増幅した生体電流を手の平から放ち――、砂鉄を集め刀身を生み出す。
無数の砂鉄は磁界により寄り集まり、一つの巨大な刀身を作り出す。
刀身からは、無視の羽音のような音が生み出され――、それは超振動ブレードと呼ばれるモノと化す。
「何だ……それは……、貴様……本当に人間なのか!」
「さあな? だが一つ教えてやろう」
一歩一歩近づいていく。
右手に生み出した長さ10メートルを超える超振動ブレードを手に持ちながら。
「お前は、俺の提案を断った」
「なん……」
俺は、超振動ブレードを頭上に掲げる。
「貴様ッ! 神を、ここまで愚弄し、さらに手にかけようと言うのか! 神殺しが、どれだけの穢れを生み出し、殺した者は、どれだけの呪いを受けるのか知って――ギャアアアアアアアアアアア」
雷の力を付与した超振動ブレードを振り下ろす。
砂鉄が熱で蒸発する前に、神たるドラゴンを両断し――、ドラゴンを形作っていた炎が消し飛ぶ。
「……こ、この化け物が!」
残った小さな青い炎から発せられる怨嗟の声。
「それがどうかしたか?」
「貴様には、神の罰が下るであろう! その魂に呪いを!」
神の断末魔とも言える声と同時に、大空洞内の壁に亀裂が入り、次々と天井から重さ何十トンもある岩盤が落下していく。
どうやら神の力で大空洞を維持していたようだな。
そう思っていたところで青い炎から、触手が伸びてくる。
「いいのか? 俺に触ると障ることになるぞ?」
「貴様の魂に呪いを!」
「まぁ、別にいいが――」
俺は、その触手を払うこともせずに受け入れたが――、俺に触れた途端、青い炎は石化していく。
「――ば、ばかな……、こんな馬鹿なことが……、貴様! まさか……、本当にばけ……」
最後まで言い終える前に、俺は青い炎を握りしめ拳に生体電流を集め雷と同等のエネルギーを生み出す。
そして拳を握りしめ――、神を消滅させた。
「ああ、俺は化物だよ。だがな――、俺をこうしたのは、お前ら神々なんだよ。何が願いがあったから助けた……だ。俺の時は、どんなに願っても何もしてくれなかっただろうに……」
俺は降り注ぐ岩盤を見あげた。
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