第91話

「……本当に?」

「ああっ! 本当だ! 一生、面倒見てやる!」


 コクリと頷くような感覚が、波動結界を通して伝わってくる。

 それと同時に、青い炎たる神の様子が変化する。

 炎は揺らめきそして――。


「……なっ――支配が……」


 動揺の声――、青い炎が強く燃え上がる。

 それと同時に俺の波動結界が、山城綾子の魂が生を求めたことを感知する。

 

「巌流! 第一の型! 雪花一閃!」


 ベストから流れるように抜いたナイフを横へと一閃させる。

 極限まで身体強化した肉体からの一閃は、神の魂に囚われていた山城綾子の魂を斬り離す。


「馬鹿な! 神たる我に干渉するだと!?」

「悪いな! こっちも商売だからな!」

「契約で縛ったというのに、馬鹿な! 何故だ! 何故に因果を切り離すことが出来る!?」

「決まっているだろ?」


 俺は、一度振るっただけで粉々に砕けたナイフの柄を投げ捨てると共に、右手を伸ばす。

 生体電流により帯電する俺の右手から伸びたエネルギー力場は、神の魂から切り離された山城綾子の魂を掴む。

 俺は、彼女の魂を手繰り寄せ、寝かせていた体へと無理矢理突っ込み接合させた。


「――うっ……」

「意識というか痛みで反応したようだな。だが――、どうやら上手くいったようだな」

「そんなことが……魂を扱うことが、どれだけの禁忌であるのか――、人に許される領分を超えているというのに……。おのれ! 人間ガアアアアアアアアア」


 青い炎が、巨大化していくと同時に大空洞に紅幸子が大空洞内に入ってくる。

 そして、俺の方を見て――、


「桂木君! 何とか理事長と連絡がつい……」


 途中で彼女の言葉が止まる。

 理由は簡単だ。

 膨れ上がっていく青い炎――、それを見て固まったからだ。


「――な、何が、起きているの?」

「丁度いい所にきた。こいつを頼む」

「頼むって! 何が、どうなっているの!? どうしてあんなことになっているの? ――というか、あのピラミッドは何なの? それに10メートルを超える、あの青い炎は一体何なの!?」

「今は説明している時間はない。とりあえず、いまは、すぐに逃げてくれ」

「無理よ! 罠がある事は貴方も知っているでしょう?」

「そういえば、そうだな……」

 

 俺は、紅幸子の肩に手を振れると、薬物ドーピングと同じように肉体の電荷を操り、紅幸子の身体を一時的に身体強化していく。

 時折、無理矢理身体強化をしていく痛みからか俺の手から逃れようと紅幸子が藻掻くが、俺がそんなに簡単に手を離す訳がない。


「――さて、お前の身体を一時的にだが身体強化しておいた。いまのお前の身体能力なら、壁を走って逃げられるはずだ」

「ひどい……、貴方、少しは人の立場になって物事を考える癖を身に着けた方がいいと思うわ」

「いまは、そんな正論を語っている場合じゃない。死にたくないなら、さっさと山城綾子を連れて逃げろ」

「はぁー、わかったわ。それよりも、どうにかなるの? 根源神なんて相手にして――」

「さてな……。だからこそ、足手纏いに居られたら困る」

「分かったわ。本当に、人使いが荒いわよね」

「よく言われる。早くいけ!」


 膨らんでいた青い炎の塊が徐々に形を変えていく。


「はいはい」


 山城綾子の身体を担ぎ上げた紅幸子は、逆さ鳥居の方へと向かうために大空洞から出ていく。

 そして、そのあとを追うかのように青く燃える炎の触手が彼女たちの後を追おうとするが――、それを俺のダガーが切り飛ばす。


「悪いな。ここからは、俺の相手をしてもらうぜ!」


 俺は左手にダガーを持ち構えながら言葉を叩きつける。


「愚かな……何と愚かな……。人間の分際で――、根源神である、この豊雲野神(トヨクモノノカミ)に逆らうとは!」

「本来、人間ってのはそういうものだろう?」


 言葉を返す。


「良かろう。――ならば、汝から我――豊雲野神(トヨクモノノカミ)の手により葬り去ってやろうではないか!」


 10メートルを超えるまでに成長した炎は、ドラゴンの形へと姿を変えると、石造りのピラミッドの上へと振動を巻き起こしながら降り立つ。

 青く燃えるドラゴン。

 その眼は真っ赤に染まっており憎しみの感情を俺に向けてくる。


 俺は、その視線を真っ向から受け止めながらデザートイーグルを右手で握る。


「いいぜ! かかってこいよ! リメイラール王国、冒険者ギルド、SSランクの桂木優斗が、お前を討伐する!」


 俺は銃口をドラゴンの額に向けると同時にトリガーを引いた。





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