第64話
ジャケットを羽織ってから部屋を出ると、ドアの外には妹が立っていた。
「何かあったのか?」
「――え? あ――、えっと……、――う、ううん。そ、そそ、それよりも!
上着なんて着ているけど、お兄ちゃん、どこかにいくの?」
「ちょっとコンビニまで行って来るだけが?」
「そうなんだ。それじゃあね! 肉まんとあんまんも買ってきてね!」
「胡桃、夜食を食べると太るぞ?」
「来年は、私は高校受験で勉強頑張っているから! ほら! 自分へのご褒美みたいな! ねっ! ダメ?」
妹と会話をしていると感じ取っていた気配が近づいてくるを察知する。
あまり話している時間的な余裕は、どうやらなさそうだ。
「はぁー。わかった」
とりあえず話を早めに切り上げておかないと――。
「ありがとー。お兄ちゃん、好き! 気を付けて行ってらっしゃい!」
「あいよ」
妹に見送られながら玄関を出て、ドアを閉めたあとは、階段を飛び降りて踊り場で着地する。
4階の踊り場から、外へと顔を出し気配を探るが此方へ意識を向けていないことを確認すると同時に4階から飛び降りた。
音もなく着地したあとは、周囲を観察する。
「アレが、神社庁から派遣されてきた人材か?」
視線を向けた先には、道端に人影が倒れている。
そして――、倒れている人影の場所には、黒い塊のようなモノが存在していた。
「なるほど……、妹と話している時に移動が減速したと思ったが、どうやら神社庁の人間達が足止めをしてくれたようだな」
黒く淀んだ塊に近づくたびに、怒りや憎悪と言った感情が伝わってくる。
それは悪霊などが持つ負の力と言ったもの。
しかも、その力は普通の霊などとは比べ物にならない。
「おい。そいつらの命を奪おうとしているのか?」
レイスなどの悪霊は、生きている存在の魂を貪ることで死の恐怖と痛みを和らげようとする性質がある。
そして――、それは目の間に存在している黒い塊も例外ではないようだ。
「――ったく」
肉体強化を行い、黒い塊に一瞬で近づくと同時に前蹴りを打ち込む。
それにより黒い塊は二十数メートル吹き飛び、公団の格子の壁をすり抜けコンクリートの壁にぶつかり停まる。
そこで、ようやく俺に向けて意識が向いたのだろう。
俺、目掛けて負の感情を放ってくるが――。
「俺に、そのようなモノは効かない」
自身の体に纏わりつく黒い触手を掴むと同時に――。
「本当の精神攻撃が、どんなものか見せてやるよ」
俺が異世界で体験した自身の負の概念を、掴んでいた触手を通して、ほんの断片――、その欠片を流し込む。
「ギャアアアアアアアアアアア」
唐突に叫び、俺が掴んでいた触手を引き千切り距離を取ろうとする黒い塊。
その直径は、最初は2メートルほどあったが、今では1メートルもない。
「どうだ? 本当の精神攻撃というのを受けた感想は……」
「アガガアガ」
黒い塊は、体全体を震わす。
そして――、体全体から100を超える無数の触手を放出すると俺目掛けて放ってくるが、触手が俺に到達したころには、俺は最初の場所には立ってはいない。
「遅い!」
手の平に、体内で増幅させた生体電流を纏いながら、雷の巨大な爪を作り出す。
そして――、黒い円形の塊に振り下ろす。
雷と同等の電圧を纏った俺の指は、何の感触も感じないまま黒い塊を切り裂き消し飛ばす。
「ギゥヤアアアアアアア」
人では到底発声できない低く恐怖を帯びた声――、それが聞こえてくると同時に、俺は指先に集めていたエネルギーを、黒いナニかの中で爆発させた。
飛び散る黒いヘドロ。
それと共に立ち込める悪臭。
そこに神性などを感じとることはできない。
つまり――、本当に神が動いているというのなら、可能性は一つだけしかない。
「たぶん傀儡だよな?」
俺は、砕けたナニカの残骸を見下ろす。
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